【正論】元慶応義塾塾長・鳥居泰彦 中選挙区制による政界再編求む2010.5.10 03:17
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民主党政権の迷走と暴走は甚だしい。かといって、自民党も頼りない。新党の結成に声援を送りたいが、「みんなで…」「たちあがれ」などと言われても、国民には具体的政策が分からない。
このままでは国民の毎日の生活は苦しくなるばかり、産業は深い不況の中にいる。安全保障も不安が増す一方だ。与党も野党もあまりに鈍感すぎる。
≪高い志で世直しの第一歩を≫
歴史を振り返ると、こういう時暴動やクーデターが起きた。今は散発的にデモの形で意思表示はするが、それ以上の力にはならないから、政治家は殆(ほとん)ど気にしない。
与野党の政治家諸公よ、国民は議会制民主主義を信じて、選挙の度に諸公にこの国の明日を託そうとした。ところが、選挙の度に裏切られてきた。今回の「政治とカネ」では、誰も責任を取ろうとせず、年金一元化という空論では老後の安心は得られない。
国の安全保障はますます危険な道に進む。あげれば切りがない。国民はそれでも選挙に全てを託してきたのだ。欧米の政治の先進国では、多くの国が小選挙区制を採用しており、健全な二大政党の体制が機能している。しかし、現在の日本は、内政も外交も、泥沼政治の陥穽(かんせい)に落ち込んでしまった。
この泥沼から、暴動やクーデターではなく民主主義のルールで脱出するには、政界再編しかない。高い志と広い視野を持ち、国の内外の問題に精通し、政党人としての資質を備えた人たちが「救国政権」に再結集し、世直しを目指すことだ。そうすれば、一縷(いちる)の望みを抱いて、国民は次の選挙にのぞむであろう。
ところが、いまの小選挙区制のままでは、その様な望みは実現しそうもないのである。7月の参議院選挙を目前にして、国民はもどかしい思いでいる。しかし、選挙制度の見直しを唱える政党は、今のところ一つもない。
小泉純一郎元首相や与謝野馨氏は、小選挙区制では選挙区やメディアでの人気が優先され、国家の大局を見る政治ができなくなる、と批判し、中選挙区制の推進論者であった。与謝野氏は先日の新党結成に際しては、選挙制度には言及しなかった。
≪小選挙区制に問題点≫
日本の政治は、時間をかけて離合集散を繰り返しながら、健全な二大政党への道を歩むべきであろう。その為にも、もう一度、中選挙区制に戻るべきである。
日本では、国会が開設された明治23年から同31年までは小選挙区制が採用された。通信手段も未発達のこのころは、小選挙区が適していたかもしれない。その後、府県単位の大選挙区の時代があったが、このころに、二大政党が育っている。
大正期に原敬が小選挙区選挙を試みたが、昭和3年、第1回普通選挙で25歳以上のすべての成年男性が有権者となって以降、中選挙区制での選挙が行われる。戦争中の大政翼賛選挙や終戦直後の占領下での一時期、大選挙区のこともあったが、中選挙区制は平成6年までずっと続いていた。
それが平成6年に小選挙区制に逆戻りして現在に至った。現在の衆議院は小選挙区(300人)と並列立候補を認める比例代表(180人)の並立制だ。
小選挙区制は、民意を代表すべき国会議員の仕事を「家業」だと思っている職業政治家や、政党から突然立候補の誘いを受けるタレント候補の、選挙活動のやり易(やす)さを考えれば都合のよい制度であろうが、選挙民にとっては甚だ迷惑な制度だ。
単純に考えて、仮に1人区でA党が51%、B党が49%だったとする。A党の意見がその選挙区の民意とみなされて、49%の大量の民意は無視されてしまうのだ。半分近い民意を無視することの問題は小さくない。
≪多様な意見を議場に反映≫
中選挙区制の方が望ましい理由を掲げよう。第1に、日本が抱える政治、経済、外交、国防いずれをとっても多様な意見がある。それらを議場に反映するのに適しているのは中選挙区制だ。
第2に、1選挙区を1人が代表する制度では、どの党も公認候補者を1人に絞る。実際に、小選挙区になってからは、志を同じくする候補者が党の公認を得られず、やむなく他の党から立候補することもある。
第3に、小選挙区制ではどうしても人気取りが優先する。テレビの有名人や、いわゆる「チルドレン」が集票の頼りになり、政見は後回しになりがちだ。小泉チルドレン、小沢チルドレン、国民は二幕のチルドレン劇を見た。ひとつは政治に最も相応(ふさわ)しくない「刺客劇」であり、もうひとつは、複雑な日中、米中関係などをこれから学ぶべき新人議員が140人も大挙、行列して胡錦濤主席に握手を求めた「朝貢劇」である。
現選挙制度で当選した議員に中選挙区制の復活を考えろというのは無理だろうか。しかし、このままでは、国民の闊達(かったつ)な意見によって議席が構成されることは期待できないことを真剣に考えてほしい。(とりい やすひこ)
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