正体現した小沢幹事長 今井久夫
政策や人事、押し通す
今年の永田町を総括してみると、何といっても民主党の小沢幹事長の突出が目立つ。まるで政局は小沢氏を軸に回転しているように見えた。
以前の小沢氏はこんなタイプではなかった。何につけても表面に出ることを避け、黒子に徹するように心掛けていたものだ。それが政権交代以来ガラリと変わった。一部で予想されていたような副総理格としての入閣はさすがに受けなかったが、幹事長はむしろ乗り気だった。簡単にOKを出したのもそのせいだ。
幹事長は副総理にくらべると地味なポストだ。また小沢氏は幹事長を何度も経験している。それだけに受け易く、かつ自信もあったに違いない。ここまではまだ以前の小沢氏らしさが残っていた。
それ以後は小沢氏は百八十度変身した。政府は鳩山首相、党は小沢幹事長、互いに縄張りを尊重し、口を出さない。この役割分担の申し合わせもなんのその、小沢氏はたちまち政府の政策であれ、人事であれ、ことごとに干渉しはじめた。干渉するだけではない。押し通すのだ。政府の方針をひっくり返し、鳩山首相の顔を潰(つぶ)すことさえ平気だ。
かくて、鳩山政権の主人公は鳩山首相ではなく、小沢幹事長だという見方が定着し、それが永田町の常識となった。その決定的出来事が小沢氏の皇室批判だ。少なくとも歴代自民党内閣ではそんなためしは一度もなかった。どの首相も天皇陛下を尊敬し、陛下の政治利用はタブー中のタブーだった。
鳩山内閣はスタート100日目にそのタブーを破った。犯人は小沢氏だ。しかし鳩山首相は何もいえない。天皇陛下と中国の習近平副主席とのあの特例会見に際して、小沢氏の発言とその振る舞いほど国民をおどろかせたものはない。記者会見では悪鬼の如(ごと)き形相で、羽毛田宮内庁長官を罵(ののし)り、宮内庁の「一カ月ルール」をコキおろした。
宮内庁長官は陛下の忠実な側近だ。宮内庁は宮中の一切の事務を処理する官庁以外のなにものでもない。それに噛(か)みついている。長官や宮内庁を非難するのは皇室そのものにクレームをつけるのと同じだ。小沢氏の思い上がりもいい加減にせよだ。何さまになったつもりだ、そういいたい。
鳩山内閣のキーワードは政治主導だ。鳩山内閣は政治家が一番エラいと思っている。官僚を扱うこと虫ケラの如しというような光景さえ見かける。いままで威張りくさっていた官僚を思うにつけ、それは一種の痛快な対応でもあった。
皇室批判が命取りにも
しかし調子に乗り、行き過ぎるとイヤ味になる。政治主導は解釈とやり方によっては独裁主義と紙一重の差になりかねない。最近の民主党政権にはその兆しが見られる。そうなるとイヤ味では済まない。おそろしさを覚える。
さて、小沢氏は皇室批判の反響にいささかあわてているようだ。それが態度に出ている。記者会見ではほほ笑みを忘れず、「ございます」言)葉を乱発し、愛嬌(あいきようを振りまわしている。しかしそんな小手細工では国民は承知しない。
このところ鳩山内閣の支持率が急落している。ジリ貧どころかドカ貧の傾向さえないとはいえない、要警戒だ。鳩山首相の不決断や先送りが自分の足を引っ張っているのは確かだが、小沢氏の大ポカも見逃すわけにはいかない。小沢氏は遂に正体を現した。小沢氏の野心や思惑がどこにあるか分からない。しかし表に出ることを厭(いと)わなくなっただけでも大違いだ。皇室批判は命取りになるおそれさえ秘めている。
後世の史家は平清盛や叡山の悪僧とともに小沢一郎の名を歴史に刻むかも知れない。いろいろな事件を引きずったまま今年も暮れようとしている。(政治評論家)
(静新平成21年12月25日「論壇」)
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