"癒着"の背景 沼津官製談合事件〈上〉
元上司、漏えい仲立ち
「磐田と同じ構図」捜査関係者 沼津市発注の駐輪場改修工事の入札予定価格を事前に漏らしたなどとして、同市職員とかつての上司、業者の3人が官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害の容疑で沼津署と県警捜査2課に逮捕された。2月には磐田市の市都市整備課長(当時)と前副市長、業者が逮捕されたばかり。現職の公務員とOB、業者の3者の間での"癒着"はどのように生じたのか。背景を探った。
「まさかあの2人がプライベートでつながっていたとは」。同署などに逮捕された市工事検査課主任筑木(ちくぎ)和正容疑者(62)=伊豆の国市北江間=と、筑木容疑者のかつての上司で元沼津市職員の無職植松秀年容疑者(69)=同容疑で逮捕、同市大岡=との関係について、市役所内では一様に驚きの声が上がった。
寡黙な筑木容疑者と豪快なタイプの植松秀年容疑者。周囲が「性格が正反対」と評する2人の関係が深まったのは、街路課で一緒に勤務した2002年度からとされる。デスクを並べたのは1年だけだったが、植松秀年容疑者が筑木容疑者をたびたびゴルフや飲食に誘うなどして、ひそかに親交を深めていったとみられている。
その後、植松秀年容疑者は産業振興部参事監兼技能五輪国際大会推進局長や監査委員事務局長などを歴任。筑木容疑者は14年度に上水道工務課長補佐から同課長に昇任した。
「真偽は不明だが、筑木容疑者が課長になれたのは、植松秀年容疑者の口添えのおかげだと一方的に思っていたのでは」。関係者はこう推察する。実際、筑木容疑者は予定価格を教えた理由を「恩義があって断れなかった」などと話しているという。
筑木容疑者は定年退職し、再任用される18年4月以前から、植松秀年容疑者に市発注工事の予定価格を教えるよう依頼され、担当工事の予定価格を伝えていたとみられている。
この頃から、植松秀年容疑者と土木建設会社「三星建設工業」の社長植松真一容疑者(47)=同容疑で逮捕、同市白銀町=からゴルフや飲食などの接待が始まったとみられる。接待は日常的に行われるようになり、最近では釣りも楽しんでいたとの情報もある。
磐田市では、前副市長が旧豊田町職員時代の部下だった市都市整備課長(当時)から図書館設備改修工事の入札予定価格を聞き出し、業者に教えていた。この課長も「『上は絶対』という感覚だった」と説明していた。
元上司が元部下の現役職員と業者とのパイプ役となり、強い影響力を発揮して予定価格を聞き出すー。捜査関係者は「沼津市と磐田市の事件の構図は同じだ」と指摘する。
☆ 磐田市の入札妨害事件磐田市発注図書館設備改修工事の入札予定価格を漏らしたなどとして2019年2月、前副市長、当時の市都市整備課長、設備会社支店長の3人が公契約関係競売入札妨害容疑で県警に逮捕された。その後、3人は同罪で起訴され、いずれも執行猶予付きの有罪判決を受けた。事件を受け、市は検証委員会などを立ち上げ、再発防止策を進めている。
【静新令和1年10月24日(木)"癒着"の背景(上)特集記事】
”癒着”の背景〈下〉
沼津官製談合
再発防止策悩む当局
法令順守問われる倫理観
「再任用職員が契約案件に関わっていることがおかしい」「第三者を加えて検証を進めるべきだ」。沼津市発注の駐輪場改修工事で予定価格を漏らしたとして、市工事検査課主任筑木(ちくぎ)和正(62)、元市職員植松秀年(69)、三星建設工業社長植松真一(47)の3容疑者が官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害の容疑で逮捕された事件を受け、24日の市議会全員協議会で経緯を説明した頼重秀一市長に、市議から厳しい指摘が相次いだ。
筑木容疑者が所属する工事検査課は工事費の積算を審査し、業務の一環で予定価格を知ることができた。他に把握できたのは工事を発注した坦当課、入札手続きを行う総務課の職員計約10人ほど。予定価格を知る職員数を絞ることも漏えい防止策とする指摘に対し、市側は「検討はする」とした一方で、人数が減ることで「設計や入札に関するチェック機能が働かなくなる」との懸念も示した。
市は予定価格を記した書類を開札日まで庁内の金庫で保管していた。ただ、今回は不正に情報を入手したわけでなく、業務上、知り得る立場の人間が秘密を漏らした。市は再発防止対策本部会議を庁内に設置し、制度面の検証などを始めるが、効果的な対策が打ち出せるかは見通せない。市幹部は「公務員としての自覚とコンプライアンスの欠如が大きな要因。最後は個人の倫理観に訴えるしかないが:」と頭を悩ませる。
2016年に官製談合事件が起こった裾野市は、正規職員を対象にコンプライアンス実態調査を実施。その上で、一部工事の予定価格を公表▽コンフライアンス推進月間の設定▽職員意見交換会(課単位)による風通しの良い職場づくりーなどに取り組んだ。市幹部は「月間や意見交換の場を常に設けて『またやるの』ぐらいにしないと(倹埋意識を)忘れてしまう」と指摘する。
三星建設工業は16年4月から19年9月までに、沼津市発注の工事を32件落札(取引総額約14億円)。このうち、12件は最低制限価格と落札額の差が5万円以内、中にはゼロだった案件もある。市内の建設業者は「以前から『こんなに精度が高いものだろうか』と業界内で話題になっていた」明かした上で、こう訴える。「談合はアンフエア。まじめがばかを見るようなことはないようにしてほしい。市は責任を持って再発防止策を追求すべきだ」
沼津市対策会議設置へ
官製談合 研修や行動計画策定
沼津市職員や元職員ら3人が官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害の容疑で逮捕された事件を受け、市は頼重秀一市長をトップにした不祥事再発防止対策本部会議の設置を決め、24日の定例記者会見で発表した。
11月初旬に設置し、入札、契約制度の検証、漏えい先の三星建設工業との契約見直しなどを検討する。関係者の聞き取り調査も行い、課題を整理して再発防止策を打ち出す。
コンプライアンス強化のため、設計や契約事務に関わる職員に公正取引委員会などから講師を迎えて特別研修を実施。具体的事列に則して指導する。不祥事防止に関する指針を示した行動計画も策定する。頼重市長は「法令順守と綱紀粛正の原点に立ち返り、あらゆる方策を講じる」と述べた。
【静新令和1年10月25日(金)「癒着の背景 下」】
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沼津市談合、職員ら起訴
静岡地検 入札予定価格漏えい
沼津市発注の駐輪場改修工事の入札予定価格を事前に漏らしたなどとして、静岡地検は8日、官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害の罪で市工事検査課主任筑木(ちくぎ)和正容疑者(62)=伊豆の国市北江間=、公契約関係競売入札妨害の罪で元沼津市職員の無職植松秀年(69)=同市大岡=、土木建設会社「三星建設工業」社長植松真一(47)=同市白銀町=の両容疑者を静岡地裁に起訴した。
起訴状などによると3被告は共謀し、3月に執行された同市発注の原駅駐輪場改修工事の一般竸争入札について、1月29日に築木被告が電話で最低制限価格の算出根拠となる直接工事費などを植松秀年被告に教え、同被告が植松真一被告に漏らして入札の公正を害したとされる。
筑木被告らから価格を伝えられた植松真一被告は3月中旬、同社に最低制限価格の
2289万円に近接した2292万円で工事を落札させたという。同地検は3被告の認否を明らかにしていない。
関係者によると、筑木被告は18年3月に定年退職した後、同年4月に再任用され、市工事検査課に配属された。植松秀年被告とは現役時代に上司の関係で、同被告を介して植松真一被告と知り合い、関係を深めたとみられている。
市長「原因究明と再発防止努める」
沼津市発注の駐輪場改修工事を巡り、市工事検査課主任の筑木(ちくぎ)和正被告(62)と元市職員の植松秀年被告(69)ら3人が公契約関係競売入札妨害などの罪で起訴されたことを受け、頼重秀一市長は8日、「市民に改めておわびする。原因究明に努め、再発防止と信頼回復に取り組む」とコメントを出した。
市は1日に頼重市長をトップとした不祥事再発防止対策本部会議を設置。契約制度の検証、職員倫理の向上に関する二つの作業部会を設け、本年度内に再発防止策をまとめた報報告書を作成する。今後、築木被告本人にも事情を聴く意向で、頼重市長は厳正に処分する方一針も示した。
【静新令和元年(2019年)11月9日(土曜日)朝刊】
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