マルサン書店仲見世店31日閉店
老朽化と再開発、紙媒体縮小響く
沼津「ラブライブ!」聖地惜しむファンも
沼津市と清水町に店を構えるマルサン書店は7日までに、旗艦店の仲見世店(同市大手町)を同地区の再開発と建物の老朽化を理由に今月31日を最後の営業日に閉店することを決めた。仲見世店は同市が舞台の人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン!」に登場し、今でもファンにとって聖地となっている。閉店を聞きつけ、見納めに多くのファンが訪れている。
仲見世店は1998年、創業店舗の通横町本店や宝塚店などを統合し当時県内最大級の書店として開店。2016年に放送された同アニメ作品には、登場する国木田花丸の行きつけの書店として取り上げられた。
閉店の理由は、店がある仲見世店周辺区画の再開発が正式決定したため。営業継続には数千万円の設備投資が必要で、コロナ禍による紙媒体の市場縮小も響き、店存続を断念した。再開発後の活用方針は未定。
閉店をSNSで知り、急きょ訪れた愛知県知立市の会性員大庭集平さん(26)は「聖地がなくなるのは残念だが、ファンとしては再開発で沼津が発展してほしい。新しくなったらまた来たい」と話した。古沢洋専務は「アニメの放送終了後もこんなに長く支持されると思わず、ありがたかった」と謝意を述べた。
今後はJR沼津駅北口近くの駅北店と清水町のサントムーン店で営業する。
(東部総局・菊地真生)
【静新令和4年5月8日(日)朝刊】
マルサン書店仲見世店が閉店へ
今月31日の営業で終了
創業120年のマルサン書店(古澤隆社長)は、基幹店の仲見世店を建物の老朽化と売り上げの低迷、一帯で再開発に向けた動きがあることなどを受け、今月31日の営業をもって閉店する。
仲見世店は1998年にオープンして24年。書店としては市内最大、地下1階から地上3階まで約1500平方㍍の売り場面積と充実した書籍数で、沼津を代表する「まちの本屋」として市民に愛され一時代を築いた。
仲見世店の立ち上げから携わる古澤洋専務に話を聴いた。
書店を取り巻く環境は時代の変化に伴い大きく変わり、かつては個人事業主による小規模の書店が多かったが、80年代にコンビニエンスストアの全国総店舗数が1万5000店を超えて雑誌や書籍の販売では書店並みの売り上げを記録。収益の中核を担うマンガや雑誌類の売り上げの低下が小規模書店の経営を圧迫した。
90年代に入ると全国的に害店の大型化が進み、広い駐車場を設けた郊外型の中規模店舗も増え、これにバブル崩壊後の出版業界全体の不況や新古書店チェーンの発達なども相まって、経営基盤の弱い書店の閉店が増え始めた。
書店の売り上げに貢献してきたマンガの総売り上げが95年に、紙の本の出版販売額も翌96年にピークを迎え、パソコンOS「MicrosoftWindoWs95」の発売を契機に、インターネットの家庭への普及が加速。ネット時代に突入し、若者を中心にポケットベルから携帯電話への切り替えが進むなど、ライフスタイルも大きく変化した時期。仲見世店がオープンしたのは、こうした激動の時代だった。
仲見世店が入るビルは百貨店の「十字屋沼津店」だった建物。十字屋が94年に閉店し、その後、空きビルとなっていたため、賃貸による出店を検討したが、所有者の意向で購入することになり、当時通横町にあった本店(現在スルガ銀行本店駐車場)と大手町の宝塚ビル内にあった宝塚店を統合して誕生した。
中心市街地に市内最大の書店がオープン。市民に与えるインパクトも大きく、絵本や児童書、専門書、雑誌や漫画も充実し、新刊、ペストセラー、地元ゆかりの作家のコーナー等も設けて幅広いジャンルの書籍が並んだ。
年間売上高は10年程前にピークを迎えたが、その頃からスマートフォンが急速に普及し、余暇の過ごし方の一つだった「読書の時間」が、スマホによるネットやSNSの利用、電子書籍にシフト。オープン時以上に大きなライフスタイルの変化が紙の本離れにつながり、「現在の売上高は当時の5分の1、総売り場面積は4分のl。売り上げが落ちれば売り場面積も縮小せざるを得ない」と古澤専務。
古澤専務は、30年程前にアメリカの書店を視察したのを機に現地関係者と交流を持ち、3年ごとの定点観察を行い、アメリカの書籍出版産業に着目しながら市内外への出店や閉店を手掛けた。
「仲見世店のオープンを前に米国のAmaZon(アマゾン)がオンライン書店としてサービスを開始した。当時、アメリカの大都市には2000坪を超える書店がゴロゴロあったが、人ロ10万人以下の都市には書店自体がなく、スーパーマーケットに売筋の本だけが平積みされているような状況だった。アマゾンの登場により、地方都市でもネット通販で手軽に好きな本が買えるようになる一方、大型書店は打撃を受け、店主の趣味や好みで書籍を集めた小さな本屋が増えた」 さらに、「当初、アマゾンの流通形態は日本になじまないという見方もあったが、スマホの普及でネット通販が手軽になり、流通の問題が解消されると利用者が増え、書店だけでなく小売産業の全てに影響を及ぼすようになった。電子書籍以外にも、音楽や映画などデジタルデータのダウンロード販売や配僧が当たり前になり、書店と同様にCDショップやレンタルビデオ屋の閉店も増えた」と指摘する。
仲見世店の閉店が決まり、スマホを使わない高齢者からは「これから、どこで本を買えばいいのか」と言われ、アニメ「ラブライブ!サンシャイン!」の作中にも仲見世店が登場し、聖地と位置付けられていることから、ラブライバーからは「思い出が詰まった店舗。ぜひ残してほしい」との声が寄せられている。
古澤専務は「仲見世店を立ち上げ、私自身も思い入れはあるが、築60年で建物の寿命が近づき、空調からエレベーター、トイレや水回りなどの老朽化で、改修費として数千万円を見積もったが、再開発に向けた動きに賛同した。書籍や雑誌のデジタル化への切り替わりは想定以上に速かった」と閉店への思いを語る。
また、「コロナ禍の『巣ごもり需要』で、当初は書籍や雑誌の売り上げも伸びたが、その後、人が出歩かなくなり、書店まで出向く人も減って、スマホで手軽に読める電子書籍への切り替え、アマゾンでの書籍購入が加速した」と分析。「長引くコロナ禍も一因」だとする。 書店ではネット検索で見られる内容の本や、電子書籍化が進むマンガや雑誌は以前ほど売れなくなる一方、これまでは書店に置かれることが少なかった堅い内容の本や文学本がアマゾンの通販や電子書籍で売れるようになった。これを管理する出版社にとっても紙の本を印刷するコストを抑えることにつながり、売り上げを伸ばしている。
古澤専務は「電子書籍化が進む中、書店で手に取り、中を「見て買われる種類の本も見えてきた。インターネットの普及で情報があふれて便利になり、文字を読む機会は格段に増えたが、編集者が関わる確かな情報は少なく、今後も紙の本の需要はなくならないと思う。今後、すぐに書店が立ち行かなくなることはないと思うが、厳しい方向性に向かっていることは覚悟しなければならない」と言い、長年、仲見世店を支えてくれた多くの市民に感謝している。
なお、マルサン書店は、北高島町の駅北店(フェスタノジマ内)と清水町のサントムーン店での営業は続ける。
【沼朝2022年(令和4年)5月20日(金曜日)】
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