2010年2月6日土曜日

「表紙替えても」の重み

「表紙替えても」の重み
 政治とカネに終止符を
 「本の表紙だけ替えて、中身が変わっていないということでは駄目だ」
 「政治とカネ」の問題が起こるたびに、結局は21年前の「言葉」に戻ることになる。1989年、リクルート事件で竹下登首相が退陣を表明。後継首相への就任要請を固辞した伊東正義自民党総務会長の名セリフだ。
 出身地・福島県会津若松市の「伊東正義文庫」で先日「総理のイスを蹴った男」というビデオを見せていただいた。記者会見での伊東氏はひょうひょうとした口調ながら、ぐっと腕組みした姿から怒りが伝わってくる。
 当時は「自民党が変わらなければ駄目」という意味だったが、「政権交代」という本当の「表紙替え」を経た今、この言葉は一層の重みを持つ。深刻な現実だ。
 「政治にカネが掛かりすぎる。100万、200万は『はした金』というのは国民感覚からずれている」とも伊東氏は語っていたという。鳩山由紀夫首相や小沢一郎民主党幹事長の資金問題は、捜査上は一区切りかもしれない。だが飛び交う「億」単位の話に「大金が動く政治」「責任は秘書」は変わっていない、とがっかりする。
 英国の政界も去年から経費不正請求問題で揺れている。住宅手当の二重請求や家の掃除代などを経費に入れ、引退表明に追い込まれる議員が相次いだ。だがその額は多くても100万円単位だ。英国は「1883年腐敗防止法」で選挙費用を厳しく制限した。その伝統がカネに対する厳しい感覚の根底にあるのだろう。
 ビデオの中で伊東氏は「国、地方のために働く前提は清潔、誠実、実行力」とも力説している。1989年の自民党「政治改革大綱」は「国民の信託によって国政をまかされる政治家は、かりそめにも国民の信頼にもとることのないよう努めなければならない」と明記した。
 伊東氏は党政治改革推進本部長に就任するが、執念を傾けた政治改革法案は海部、宮沢政権で頓挫。93年引退し、翌年亡くなった。戒名は「正義一徹居士」である。
 政治改革関連法は94年、細川政権で成立する。小選挙区比例代表並立制や政党助成制度の導入は「カネが掛からない選挙」「企業・団体献金の制限」をうたった。だが事件はその後も絶えない。
 国会は「政治とカネ」に多くの時間が費やされ、経済や外交など重要課題の議論は脇に追いやられている。政権交代という節目の今こそ、悪循環に終止符を打ってほしい。必要なのは、事件のたびに関係法を繕う対症療法ではなく、政治のコストを見直し、腐敗防止策を徹底する抜本的な制度改革だ。「一徹」に取り組む政治家はいないのか。
(静新平成22年2月6日「政考政読」)

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