乗務員の決断命救う
羽田衝突事故 危機一髪「奇跡」の脱出
羽田空港で2日、日航機と海上保安庁の航空機が衝突、炎上した事故では約18分で乗客乗員379人全員が脱出し、海外メディアから「奇跡」と称された。乗務員らは冷静に緊急時の手順に従い、安全に避難できる非常口を判断。機長らと連絡が取れない中、客室乗務員(CA)は自身の決断で脱出シューターを降ろした。乗客は混乱しながらも指示に従い、危機一髪で機外に逃れた。
手順
「急ブレーキを踏まれたような衝撃を感じ、窓の外に炎が上がっているのが見えた」(乗客)。2日午後5時47分の着陸直後。機内にざわめきが広がる。「落ち着いてください」。9人のCAが懸命に声を張り上げる。
トラブル時に乗客がパニックに陥らないよう定められた手順だ。CAの一人が「左側のエンジンから火が見える」と報告。チーフのCAも確認してコックピットに知らせ、脱出の指示を受けた。
機内に少しずつ煙が広がる。子どもの泣き声、「開けてください」と叫ぶ声が響く。CAは煙を避けるため低い姿勢をとるよう指示しながら、安全に脱出できる経路を探る。最前方の左右の非常口が使えることを確認し、避難を始めた。
訓練
最も後ろにいたCAは最後方右側のドアの外に炎を見た。「ここは開けられない」。最後方左側のドアの外に火はなく、スペースがあったが、前方にいる機長の指示を仰ごうにも通信機器は故障。煙がどんどん濃くなる中、脱出シューターを降ろす判断を自ら下した。
「荷物を取り出さないで」。都内の女子大学生は、乗客がCAに注意されるのを見た。乗客らは指示に従い、スマートフォンぐらいしか持たずに次々と滑り降り、先に脱出した人はシューターの下で避難を手伝った。機長は前方から一列一列座席をチェックし、残っていた人に避難を促した。逃げ遅れがいないことの確認を終え、最後部から脱出したのは午後6時5分。ほどなく、機体は猛火に包まれた。
日航によると乗務員はさまざまな事態を想定した訓練を受けている、日航の赤坂祐二社長は4日、報道陣の取材に「訓練以上の成果を出せたんじゃないか」と強調した。
協力
航空機の量産には安全などの基準を満たすことを示す国土交通省の「型式証明」が必要で、大型旅客機は半分の非常口から全員が90秒以内に避難できることも求められる。今回は八つの非常口のうち三つしか使えない厳しい状況だった。
元国交省航空局安全部長の高野滋さんは、衝突で機一体が前傾し、シューターの傾斜が緩やかになったと分析」。滑り降りやすい状態だったとみる。乗務興の対応に加え「緊迫した状況でも、乗客の協力を得られたことがスムーズな避難につながった」と評価した。
【静新令和6年1月5日(金)朝刊一面】
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