PIに市民不信感:沼津の鉄道高架事業
県は核心突く議論急げ
事業着手から10年目を迎えた沼津市のJR沼津駅周辺の鉄道高架事業をめぐり、県が行っている住民参加型の合意形成手法パブリックインボルブメント(PI)。県は「不幸を生まない解決策の模索」と位置付けるが、市民の理解度はいまひとつ。県はPIの目的を再度明確にし、核心を突く議論ができる環境づくりを急いでほしい。
同事業は交通の円滑化や防災力強化などを目的に、約30年前に計画が浮上した。高架化には駅付近の貨物駅の移転が不可欠だが、移転予定地の原地区の地権者らの反対が根強く、用地取得率は7割で頭打ちの状態。2010年には川勝平太知事が「強制収用しない」と明言し、事実上、凍結状態になった。
県は昨年、有識者会議の結論を受け、事業の推進方針を打ち出し、貨物駅の移転計画も「妥当」とした。その一方で、徹底した合意形成の必要性も強調し、計画の見直しも含めて議論するPIの導入を決めた。
県の曖昧な姿勢に、市民は混乱している。推進派の男性(59)は「駅前の再開発が着々と進み、推進方針も示されたのに、なぜ今さらPIをやるのか。結論を先延ばしにしているだけではないのか」と憤る。一方、見直しを訴える男性(68)も「PIの前提に推進方針があるのなら、いくら時間をかけて議論しても無駄。反対派への"ガス抜き"にしかならない」と不信感をあらわにする。
PIでは本年度中に6行程(ステップ)の議論を行い、現計画や代替案を検証する。最終的には議論の結果を踏まえた推奨案を知事に提示する予定だ。県はあくまでも、住民とのコミュニケーションを重視し、合意形成を目指すが、このままではかえってPIに不信感を抱く住民が増えてしまうのではないか。
PIは現在、地域の将来像や課題を話し合うステップ2の段階でとどまっている。県はこの4カ月間、まちづくりに関する意見を聴く「オープンハウス」「車座談議」などを重ねている。現在は個別の意見を収集するだけで、合意形成に向けた話し合いがいつ始まるのかは不透明だ。
まちの将来を左右する重大な問題について、できるだけ多くの人から意見を聴くことは大切だが、中心街が低迷している沼津市に、残された時間は少ない。このまま結論が先送りになる事態は避けなければならない。県は今までに挙がった意見を集約し、次のステップに住民を速やかに導いてほしい。(東部総局・豊竹喬)
(静新平成24年8月31日「解説・主張しずおか」)
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