沼津の鉄道高架
土地収用手続きへ 市の将来像具体化急務
JR沼津駅付近鉄道高架事業を巡り、高架化の前提となる貨物ターミナル移転用地(沼津市原地区)の取得に向けて、県と市が土地収用法に基づく手続きに着手し、土地の立ち入り調査が行われた。構想から30年余、事業認可から12年を迎える中、本体着工への動きが具体化する。県と市は事業完了への道筋を早急に示した上で、沼津駅周辺や市全体の将来像を市民を巻き込んだ形で議論し、まちづくりを具体化させる必要がある。
沼津駅周辺のJR東海道線など計約5・3㌔を高架化し、現在の車両基地を片浜地区に、貨物駅を原西部地区に移転する同事業。南北交通のボトルネック解消とともに鉄道跡地(約5・6㌶)や高架下などの利活用が可能になり、市は民間投資を含めて「駅前空間や中心街を大きく変えるチャンス」と捉える。事業進展を見据え、駅前の一部の土地を都市再生機構(UR)が取得。本年度から官民の関係者や有識者による「中心市街地まちづくり戦略会議」が発足する。
ただ、高架化実現が中心部活性化に直結するわけではない。市は事業完了を念頭に、車ではなく歩行者らの利便性を重視した駅前空間の形成やまちなか居住の促進を構想する。今後も続く人口減少や高齢化に合致した持続可能な都市機能とは何なのかー。財政の長期的な見通しや公共施設の再配置なども考慮し、「商業地」という従来の発想を転換して中心市街地の在り方を考える姿勢も必要だろう。
貨物夕ーミナルが整備される原地区も同様だ。事業に反対し、土地収用裁決の事前差し止めなどを求めて国、県などを相手取る裁判を継続する地権者がいる一方、容認姿勢の住民からは「貨物駅ができて終わりなのか。原地区の振興はどうなるのか」と今後を不安視する声が漏れる。
事業推進を明言して4月に初当選した頼重秀一市長は原地区を中心とした市西部地域の物流拠点化構想を打ち出し、隣接する富士市との連携にも意欲的だ。24件という多数の地権者に対し法的手続きに踏み切った以上、事業への覚悟とともに原地区の将来像を積極的に語ってほしい。
鉄道高架だけでも約787億円を投じる巨大事業が動き出す。財源に限りがある中、都市基盤整備を最大限に生かして中心市街地や原地区で新たな"沼津の顔"を見せることができるか。リーダーの手腕が間われる。(東部総局・中村綾子)
【静新平成30年11月9日(金)「解説・主張SHIZUOKA」】
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