2022年8月17日水曜日

時評 小川良昭 成年年齢引き下げの課題

 

時評 小川良昭


 成年年齢引き下げの課題

今後も関心持ち続けて

 私は、本紙622日の拙稿(朝刊「時評」)で、本年41曰から18歳が成年となって適用される事項の概略を述べました。この適用には、問題や気掛かりになる点についてさまざまな意見が寄せられているので、何点か改めて述べます。ここではまず、年齢引き下げを批判する意見のいくつかを紹介します。

 ①そもそも、国民が成年年齢の引き下げを望んでいるのかという点では、内閣府の2013年の世論調査や、15年の読売新聞の世論調査によれば、回答者の過半数が反対またはどちらかといえば反対と答えている。

 ②成年年齢の引き下げのメリツトに比べてデメリットがはるかに大きいと思われる。

 ③諸外国の主流は、成年年齢が18歳であると言うが、それには年齢引き下げに伴い、若者の自立を援助するような施策が導入されている。日本ではその導入が不十分である。

 そこで以下、個々の事項についての間題や懸念される点を何点か述べます。

    成年者取り消し権 親の同意がなくてもローン契約やクレジツトカード契約等ができることになるが、判断能力が十分でない若者が詐欺などの消費者被害に遭わないかなどの心配があります。これまでは18歳以上でも未成年ならば、このような行為は親が取り消しできたが、今後は18歳以上にはこの取り消し権がなくなりました。

②裁判員

 これからは高校生でも裁判員になる可能性が生まれたが、未熟な若者が重大な事件について十分な判断ができるかが不安視されています。

 ③労働契約解除権

 労働基準法では、これまでは未成年の者に不利益な労働契約は、親は解除することができるとなっていたが、18歳以上にはこの解除権が喪失されることになりました。

 ④自立困難な若者の保護

 親権の対象となる年齢が引き下げられたことから、自立に困難を抱える若者の困窮が増大する心配があります。 そこで、右のような懸念される点などを解消するには、次のような施策や整備が必要です。まず、若年者の消費者教育の充実、国民の新たな制度に対する理解や意識改革の施策です。さらに、若年者の自立を促すような施策や、消費者被害の拡大防止のための消費者契約法や、割賦販売法、貸金業法、特定商取引法などの整備の施策が必要です。

 若年者はもちろんですが、親として若年者を持つと持たないとにかかわらず、国民全般が今後の成年年齢引き下げ問題に関心を持ち注視していくことが重要と思います。

 おがわ・よしあき 県弁護士会沼津支部所属。19449月、沼津市生まれ。沼津東高、京都大法学部卒。裁判官を経て弁護士に転身。日弁連常務理事、県弁護士会長を歴任。元沼津市選挙管理委員会委員長、元法テラス沼津支部長。現在、県人事委員会委員長。

【静新令和4817日(水)朝刊】

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