2009年7月8日水曜日

検証知事選:上中下

「検証知事選:上」
自民、衝撃の敗戦 "変革の風"読み切れず
 衆院選の前哨戦として全国的な注目を集めた知事選は、民主党などが推薦する川勝平太氏(60)が初当選を果たし、政権交代の波が静岡に押し寄せた。知事選を検証した。
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 「知事選敗北の責任をとって三役の職を辞することに決めた」。知事選の投開票から一夜明けた6日、自民党県連の小楠和男幹事長は静岡市内で開いた役員会で辞意を切り出した。
 「選挙はやる以上は勝たなければならない。負けたら誰かが責任を負わなければいけない」。自民、公明の与党が推薦した坂本由紀子氏(60)の落選決定直後から、三役間で連絡を取り合った末の決断だったが、目前に迫る次期衆院選と、坂本氏の知事選出馬に伴う10月下旬の参院補選への対応を理由に思いとどまった。
 一方、敗戦を受けて坂本氏陣営の選対幹部を務めた複数の県選出自民党議員も同日、国会内で与党幹部の元を訪れた。
 「力不足で申し訳ありませんでした」とわびた県選出議員に、自民党幹部は「よくやってくれた。地元のせいではない」とねぎらった。
 幹部との会談を終えた県内議員の一人は「政局の混乱を(敗因に)認めてくれたが…」と肩を落としたが、別の党関係者は敗因として「石川(嘉延)前知事の"後継指名"もマイナスに働いたのでは…」と声を潜めた。
 党の役員人事や閣僚の補充人事をめぐって内閣支持率が低迷し、民主党が提唱する「政権交代」という「変革」を求める風は、県政という「足元」にもあったという"解説"だ。
 坂本氏は、4期16年に及ぶ石川前知事の下で務めた3年間の副知事という経験と実績をアピール。石川前知事も6月18日の告示以降、自らマイクを握って坂本氏を「信頼のおける人」と、事実上、後継候補に指名した。
 静岡新聞社・静岡放送が5日に県内投票所で行った出口調査によると、現県政に対する満足度について「やや不満がある」と答えた人が31・4%と最も多く、「かなり不満がある」(19・4%)を加えると、ちょうど半数に達した。川勝氏はこうした層のうち、約半数の票を取り込んでいた。
 次期衆院選後の政権の枠組みについても「民主中心」を求める声は40・8%だったのに対し、「自民中心」はわずかに24%。民主党が政権交代をかけた衆院選の前哨戦に位置づけたのに対し、坂本氏は与党に対する逆風をかわそうと「一党一派に偏らない県民党」と党派色を薄める戦いで臨んだが及ばなかった。
 投票結果にも県民の「変革」を求める思いは表れている。川勝氏と、「脱官僚」「県民主義」を掲げた無所属の海野徹氏(60)とのいわゆる「非自民」票は112万票。投票者の6割以上が自民候補に「ノー」を突き付けた。
 「国政と県政は別」と選挙戦を繰り広げた坂本氏陣営だったが、県民は明らかに県政にも「変革」を求めた。ある自民党県議はこう皮肉った。「変えたいという『風』を何も分かっていなかった」
(静新平成21年7月7日「検証知事選」)

「検証知事選:中」
民主劇的勝利 党を前面に出遅れ克服
 東京都内の民主党本部で7日開かれた党の常任幹事会。「川勝候補が見事な戦いで勝利し、名古屋市、さいたま市、千葉市、静岡県とバトンが渡された。このバトンをさらにつなげる必要がある」。鳩山由紀夫代表は川勝平太氏(60)の知事選当選を弾みに都議選に勝利し、次期衆院選での政権交代を実現するようげきを飛ばした。
 川勝氏陣営は政権交代に向けた風を、最大限に生かして選挙戦略を展開した。鳩山代表ら幹部が続々応援に入り、川勝氏自身も演説で「静岡が変われば、日本が変わる」と繰り返した。候補者決定の遅れ、知名度の低さ、民主党を離党した元参院議員海野徹氏(60)との候補者一本化断念などマイナス要素を克服し、72万票余を獲得しての「劇的勝利」(岡本護同党県連幹事長)を収めた。
 ただ、民主側もそろばん通りに選挙戦が運んだわけではない。当初は「投票率63%、得票80万票」と高い目標を掲げたが、陣営内には「65万票前後の争い。投票率が55%に届けば勝利が見えてくる」と冷静な見方が強かった。
 海野氏の得票は最後まで不透明な要素だった。陣営幹部は投票日直前、「これまで参院選などでの民主票はせいぜい80数万票。(海野氏票が)20万票を大きく超えるようだと危ない」と不安を口にした。
 しかし、ふたを開けてみると、川勝氏が当選し、海野氏も33万票を獲得。出口調査の結果からも、「純粋無所属」を掲げた海野氏が、民主支持層の一部だけでなく、自民、共産支持層の一部や支持政党なしの層から一定の得票をし、既存政党の批判票の受け皿となったことがうかがえる。
 川勝氏の選対本部長を務めた民主党の藤本祐司参院議員は7日の党常任幹事会で、政権交代に向けた風が吹いているとする一方、「(川勝氏と海野氏の票を)足してわれわれ(民主)の票と思うのはちょっと甘いかもしれない」と指摘した。
 川勝氏の勝利で民主党県連や県議会平成21の関係者の意気は上がる。川勝氏は投票日翌日の6日、平成21の議員総会を訪れ、「選挙中は皆さんに鍛えていただいた。恩義は忘れない。これから県民のために尽くすには、何といっても最初の教師が頼り」と述べた。ただ、県議会では過半数の40議席を占める自民党に対し、川勝氏を推薦した平成21と民主党・無所属クラブは、合わせても25議席の少数与党だ。
 平成21の幹部の一人は「自民県議の一部が川勝氏に出馬要請した経緯もある。円滑なスタートが切れるよう彼らとも話し合っていく」と楽観視する。しかし、会派議員の一人は「まれに見る激戦だっただけに、しばらく対立の構図が続くのはやむを得ない」と厳しい表情を見せた。
(静新平成21年7月8日(水)朝刊)

「検証知事選:下」
与野党交代の議会対応
 波乱含み問われる手腕
 「多くの支持者の思いを背負った戦いは終わった。ノーサイドです」 当選が確実となった5日深夜、川勝平太知事(60)は歓喜に包まれる事務所で慎重に言葉を選び、こう強調した。
 6日のインタビューでも川勝知事は「他候補にも100万票以上が流れた。政策の良いところを取り入れ、マニフェストに肉付けする」と発言。穏やかな口調の端々に、選挙戦で対峙(たいじ)した自民党が過半数を占める県議会への配慮をうかがわせた。
 県議会(定数74)の構成は、選挙で川勝知事を支えた"与党"となる民主系が平成21の21人と民主党・無所属クラブの4人のうち3人、無所属2人で計26議席。
 一方、坂本由紀子氏(60)を支持した自民、公明が計46議席を占め、遠く及ばない。
 川勝知事が発した「ノーサイド」の言葉を、自民県連は「われわれの仲間は誰一人、知事野党の経験はない。民主に対抗する政党政治をやる。根本から対応を考えなければならない」(小楠和男幹事長)と慎重に受け止める。
 一方で、県連幹部の中には対抗意識をむき出しにする声が少なくない。「是々非々ではなく非々非々の可能性だってある。4年間でマニフェストを実現すると言った以上、やってもらう。絵に描いたもちを食べさせられた県民はたまらない」
 対する平成21には「これから衆院選、参院補選と(自民対民主の構図の選挙が)続く。自民側の対決姿勢はやむを得ないが、問題はどこまで"いじわる"をされるかだ」と、厳しい見方がある。別の幹部は「知事が一党派に偏った県政運営はできない。(川勝知事が自民側に配慮の姿勢でも)われわれがとやかく言うことではない」と融和重視の姿勢をにじませた。
 休会中の6月定例会。石川嘉延前知事が提出した議案を審議する24日の再開日に、川勝知事の所信表明と代表質問を連続して行う予定だった。しかし、"与野党"の双方から「所信表明を吟味し、質問戦に臨みたい」との意見が出た。定例会の再開日を前倒しし、所信表明を受けた代表質問まで準備期間を設けることで、論戦を充実させる案が検討されている。
 公明党県議団の阿部時久代表は「(新知事が)県政のどの部分をいじるのか。県民に対してどうなのかという視点が大切。衝突ありきではない」と基本姿勢を説明する。
 知事選の候補者擁立過程で発足した超党派の「夢あるしずおか創造会議」に参加した自民県議の動向はじめ、県議会が新知事にどのように向き合うかは不透明な状況だ。
 ある自民のベテラン県議はこうつぶやいた。
 「地域の要望をこまめに聞く"どぶ板選挙"をやる自民党に『知事野党で頑張ってます』なんて言葉は1票にもならない。次の選挙(県議選)までに、知事をこちらに取り込まないと、大変なことになる」
(静新平成21年7月9日(木)朝刊)

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