「旧田中派復活の民主」(政考政読)
見えない首相の意志
「初当選して意気込んで国会に来たら、派閥(自民党旧田中派)で『君らの仕事は、次の選挙で勝つことだ』と言われた。われわれは違う。新人議員からベテラン議員まで、一人一人が独立し、考え、行動する党だ」鳩山由紀夫首相が、1996年秋の旧民主党発足前後に、演説などで頻繁に訴えた言葉だ。
13年後、民主党は悲願の政権交代を実現、鳩山氏は首相となり、旧田中派のオーナー故田中角栄元首相の秘蔵っ子である小沢一郎幹事長が党をまとめる。
その小沢氏は、新人議員に「まず次の選挙で当選するための活動を」と訓示した。党幹部も競うようにつじ立ちなど選挙区での活動に取り組むよう指示、当選から臨時国会召集までの約2カ月間で、国会に来たのは数えるほどという新人議員もいる。
選挙最重視の"小沢思想"が徹底する民主党の雰囲気は、まるで「旧田中派」が復活したかのようだ。だからこそ、「大学のサークル」とからかわれた民主党が、政権に就けたというのも事実だろう。
だが、行政刷新会議で「事業仕分け」を担当するワーキンググループには、当初は政策に詳しい新人議員も参加することになっていたのに、党側が党の研修への参加を優先させるよう要求、結局見送りとなった。首相自らが「必殺仕分け人」と激励、作業にも着手していたのに、である。
旧田中派の"伝統"には、「考え、決めるのは派閥幹部。それ以外の議員は黙って従う」もある。それが徹底されたからこそ「鉄の団結」と評されたのだが、若き鳩山氏が疑問を抱いていたことは、冒頭の言葉からもうかがえる。
民主党は「政策決定の一元化」方針に基づき、政策調査会を廃止した。もちろん国会での法案審議はあるが、これも政府に入った"政策分野幹部議員"が考えるから、それ以外は賛成していればいいという仕組みにみえる。議論して当然の政策でさえそうなれば、党運営などがどうなるかは、推して知るべしだろう。
自民党の政治を批判し、新しい政治をつくると訴え続けてきた首相は、本当に今の民主党の姿でよいのだろうか。
初当選直後のレコードの自主制作と同様、「若気の至りだった。今は選挙が最優先と分かった」というのならば、残念だが仕方がない。
でも、好ましくないと思いながらも、小沢さんに任せたからとか、鳩山政権の安定が大事だとかの理由で目をつぶっているのなら、あまりに都合が良すぎるのではないか。民主党の最高責任者である「鳩山代表」の考えを聞きたい。
(静新平成21年10月31日夕刊)
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