民主「脱官僚」の旗怪しく 屋山太郎
郵政社長は典型的「渡り」
脱官僚、地域主権の確立をマニフェストに掲げ大勝した民主党だが、脱官僚の旗が怪しくなってきた。脱官僚の入り口は天下り禁止、渡り根絶だが、鳩山内閣は日本郵政の社長に元大蔵省事務次官の斎藤次郎氏をもってきた。加えて副社長に足立盛二郎元郵政事業庁長官、坂篤郎前内閣官房副長官補を据えたのには唖然とした。党の象徴的政策でこのような公約破りをするようでは民主党の支持率が下がるのは当然だ。2日に発表された共同通信の支持率は前回より10%も下がったが、この約束破り人事が影響しているとみていい。
亀井静香郵政担当相の独断人事だとか、斎藤氏は14年間も民間にいたなどと、鳩山首相は弁解している。しかし斎藤氏のケースは典型的な渡り人事であり、坂氏のケースはまぎれもない天下り人事だ。亀井氏の独断であろうがなかろうが、民主党が泥をかぶらねばならない。
鳩山氏の政権運営手法は各大臣に自由にやってもらうということのようだが、首相は肝心要のところでは自ら断を下さねばならない。政権発足50日にしては政治が急速に動いている観がある。これは事務次官会議を廃止して各省を大臣、副大臣、政務官の政務三役会議で仕切っているからだろう。
しかしこの体制は三役会議がその省の仕事を理解し、人事も掌握していることが前提だ。さらに政権全体の流れに沿っているかどうかの判断も不可欠だ。
しかし亀井郵政担当相は民主党の掲げた脱官僚という大義に明らかに反して行動している。郵政改革の内容についても、元の官営にはしないというだけで郵政公社復活の兆しを見せている。本来、郵政事業と全く無縁のかんぽの宿も丸抱えし、郵便局員に老人の家に出向いて"声かけ運動"をさせようとの動きまである。福祉事業はまさに地方自治体の仕事であって、地域によって千差万別だ。それを中央集権的に福祉業務を郵便局に背負わせるのか。
日本郵政を財務省が占拠したことによって、財務省の地方行政、金融、予算にかかわる権力は一段と肥大化した。民主党が小沢一郎氏に完全掌握されたのと同様、財務省の全官僚支配は復活どころかより強固なものとなった。
道は一つ、全次官の更迭
菅直人副総理が担当する国家戦略室は民間人や官界から改革派の人物をリクルートしようとした。ところが官界と対立したくないという松井孝治官房副長官(経済産業省出身)の横やりで人事が覆った。改革を願望する若手官僚はたくさんいるが、うっかり国家戦略室に入れば将来を危うくするとの機運に包まれている。「脱官僚」といい「政権をとったら局長以上の方の辞表を預かる」(鳩山首相)といっていたのに、選挙中に記者会見で民主党の農政を批判した井出道雄農水省次官まで留任させたのは大失敗だった。これで官僚はこれまで通り次官、局長の顔色さえ窺っていればいいということになった。大臣の意向に忠実でなければ任をはずされる、降格される立場に立たされてこそ、官僚の大臣に対する忠誠度が担保されるのだ。
亀井氏は郵政肥大化にお墨付きを与えた。前原誠司国交相は日航(JAL)を国営化するが如くである。何十年も前からいわれたことだが、日航は民事再生支援法でも会社更生法でも助からない。破産法を適用してやり直すしかないのだ。鳩山内閣は脱官僚といいつつ、天下りを認め、巨大な国営企業を創り出す趣だ。この空気を一新するためには正月を期して全次官を更迭してやり直す荒業しかない。(政治評論家)
(静新平成21年11月4日「論壇」)
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