2009年9月4日金曜日

民9自1の波紋:1

 衆院選しずおか
「民9自1の波紋」1「自民敗北の予兆」
 「もっと若者いないと」
 民主党が県内でも大躍進した衆院選から一夜明けた31日。民主新人に敗れた自民党の柳沢伯夫氏(74)は袋井市の事務所で、主な支援者にお礼の電話を掛けた。前夜の敗戦の弁で、目を潤ませ「残念というほかない」と頭を下げた柳沢氏。8回の当選を支えてきた強い保守地盤の3区でも、自民が歴史的敗北に至る予兆はあった。
 投票日が迫った8月27日、柳沢氏は出身地の袋井市内での集会で、支持者に心情を吐露した。
 「ミスばかりしてきた自民におきゅうをすえないと、というのが国民のみなさんの"ムード"。敗北の覚悟をしている」 あまりに率直な危機感の訴えに、満席の会場は静まり返った。
 柳沢氏は続けた。「戦う相手がいない。ムードですから」 柳沢氏は景気回復と経済成長のための政策を地道に訴えた。ただ、陣営には昔ながらの選挙運動の手法も敗因となったとの指摘がある。
 年配者が目立った集会もその一つ。袋井市内で20日に企画した若手決起大会で柳沢氏は「若者と政治を結、び付ける機会をこれまであまり持ててなかった。率直に言って申し訳ない」と弱点を認めた。掛川市内で23日に行った集会でも、掛川市議の一人は「もっと若者がいないと」と、満席を喜ぶよりも、支援者の高い年齢層に表情を曇らせた。
 掛川市役所に、期日前投票のため訪れた60歳代の男性。支持政党は自民党だが「自民は今の国民生活の本当の窮状を分かってない。4年間待てないし、今回は民主の『生活第一』に懸ける」と述べ、民主候補に1票を入れた。
 31日朝。4区の自民党の望月義夫氏(62)の選対に入り、望月氏を全面支援してきた静岡市清水区の会社社長は「民主党圧勝、政権交代」を報じる新聞を手に、ため息をついた。
 「従来型の組織選挙じゃ駄目だった。市民の目線で、大衆を巻き込んだ運動が必要だった」 望月氏苦戦は陣営も心得ていたが、総決起大会には3千人以上を集め、個人演説会も反応は良かった。動員では同区の民主候補を寄せ付けなかった。ただ、自民党静岡市清水支部の元役員は、党が誇る動員力を冷静に分析した。
 「いつも1票を入れてくれる人が"顔合わせ"する儀式になっているのかもしれない。票の広がりにつながらなければ意味がない」
 1区の県都決戦で敗れた自民上川陽子氏(56)。選挙区全域を歩くローラー作戦など陣営の実動部隊を担った女性部の幹部は30日夜、テレビの選挙報道を見ながら「自民の政策が優れていると丁寧に知らせて回った。汗をぬぐってお願いした。でも『自民に入れます』と言ってくれない。10年前の選挙なら考えられないことが起きていた」と打ち明けた。
 上川氏は31日朝、静岡市内で街頭演説に立った後、選挙戦を苦々しく振り返った。
「地方で頑張っても、中央からわき起こったうねりに、あらがうことはできなかった。上川対民主候補でなく、上川対民主党の戦いになってしまった。有権者は、比例票を2票投じていたかのようだった」

 国民の1票が国政に歴史的転換をもたらした衆院選。なぜ自民はわずか1議席にまで敗北し、飛躍を果たして9議席を得た民主にはどんな課題が待ち受けているのか。水面下で進行していた県内政局のうねりを検証し、県民生活に広がる波紋を探る。
(衆院選取材班)
(静新平成21年9月1日「民9自1の波紋」)

 衆院選しずおか:2
「民9自1の波紋」「知事選の明と暗」
「 組織の結束力に隔たり」
 1日の県議会自民党県議団の控室。地元小選挙区の選対本部に張り付き、最前線で戦ってきた県議がぽつぽつと顔を見せた。「獲得議席1」の惨敗に笑顔はない。日焼けした顔で、こんな会話が交わされた。
 「負けは民主への風だけで説明できないし、してはいけない」「そもそも、知事選の総括が足りなかった」
 自嘲(じちょう)気味に「自民は全国で"在庫一掃"を強いられたと反省すべき。ここまで負けが込めば、逆に議論もしやすい。若い民主に勝つ戦略を」と党再生の道筋を語る議員もいた。
 前参院議員を擁立した知事選の敗北から間もない7月中旬。ベテラン県議数人がひそかに、党県連の再生、活性化を考える新たな「政策研究会」の結成を話し合った。
 「麻生太郎首相が言う『まずは景気対策』もいいが、その先が見通せない」「創造的な施策を自民党が提案しなければ党再生はない」
 研究会は県連執行部の改革路線を支える立場を堅持し、全県議に参画を呼び掛ける方針を確認。ただ、「衆院選に、いらぬ波紋を広げる」との意見も出て、参画の呼び掛けは衆院選後に先送りされた。
 自民は知事選候補者選定で、県連執行部が民主との相乗り候補擁立を模索。さらに、一部の県議が民主系県議との超党派会議に加わって処分されるなど、混迷を極めた。選挙戦は衆院選の前哨戦として全国の注目を集める中、自民県連の内情は一枚岩とはほど遠い状況だった。
 ベテラン議員による研究会設立の動きは危機感の表れだったが、衆院選の前に、県議団の結束を固めることはできなかった。統一感のある選挙戦略や、選挙区を越えた自民票の掘り起こしなどに課題を抱えたまま、県連は衆院選公示を迎えた。
 一方、川勝平太知事を担いで勝利した民主。知事選を戦いつつ固めた支援組織との連携や組織体制を、衆院選につなげた。
 連合静岡の幹部は、過去の対立関係を清算して支援した1区での勝利を「(知事選で)同じ釜の飯を食った戦友として(候補者と)距離を縮めた。知事選が"接着剤"になった」と言う。
 多くの陣営が、知事選で「県政の政権交代」を強調、衆院選での「政権交代」のイメージにつながるよう、戦略を練った。
 "風頼り"が指摘される民主の選挙。だが、知事選の流れを引き継ぎ、マニフエスト(政権公約)のPRを運動の柱に据える選挙戦略は各区で徹底され奏功した。議席奪還の元職は、知事選の勝利について「保守王国も1票の力で変わることが(有権者に)分かってもらえた。衆院選に弾みがついた」と振り返った。
 県議会会派平成21の岩瀬護顧問は、知事選の衆院選への波及効果を「政治の変革を求めた有権者に余韻が残っていた。そうした有権者の思いに乗ったことが今回の(民主党圧勝の)結果につながった」と指摘した。
 ただ、同会派の若手県議はこう指摘した。
 「今回の衆院選の結果は、自民党政権の実績に対する有権者の厳しい評価。有権者はそういう基準で1票を投じたと思う。政権を取った民主がこれからどう評価されるのか。次の選挙に怖さはある」(衆院選取材班)
(静新平成21年9月2日「民9自1の波紋」)

衆院選しずおか:3
「民9自1の波紋」「民主に重い責任」
 期待…問われる実行力
 「正直、自民党が1人も出席しない付与式は想像できなかった。それだけすごい選挙だったと実感した」民主党が圧勝した衆院選から2日後の1日、県庁であった小選挙区の当選証書付与式。自民党関係者が1人もいない会場で、民主党当選者の秘書の1人が感慨深げに漏らした。
 比例代表を含め、県内候補9人全員の当選に、民主党関係者の間には高揚感が漂う。「選挙力ーで住宅地に入ると、多くの人が窓から手を振り、出てきてくれた。期待の大きさを感じた」と県連の岡本護幹事長。ほかの同党系県議も「今までにない有権者の反応があった」と口をそろえる。
 ただ、実際に政権を担う今後のこととなると、楽観論ばかりではない。選挙中、高らかに掲げたマニフェスト(政権公約)の実行という重い責任を負ったからだ。
 既に民主党優勢の情勢が報じられていた8月24日、沼津市内であった渡辺周氏(47)=6区=の決起集会。渡辺氏は約2千人を前に「マニフェストに関する多くの質問が寄せられている」と切り出した。
 目玉施策の子ども手当について、配偶者控除廃止の場合の子どもがいない家庭への対策が「不完全」と指摘。高速道路完全無料化も交通渋滞などに懸念を示し、「マニフェストを何が何でも100%断行するのは蛮行に近いかもしれない」と述べた。
 マニフェスト批判とも取れる発言だったが、渡辺氏は「こういう問題をきちんとやらなければ、党はすぐに信頼を失う。ごまかしがあれば、期待は一気に失望に変わる」と強調した。
 民主党県連幹部の1人は「党内には『4年後の選挙(での反動)が怖い』と言う者もいるが、実績を挙げられなければ、4年後どころか、来年夏の参院選の時に風がどう変わっているかも分からない」と危惧(きぐ)する。
 自民党に比べて見劣りする地方組織の強化も民主党の課題だ。投開票日翌日、比例代表で当選した新人の小林正枝氏(37)が記者会見し、「政治経験はまったくないが、有権者の声を確実に国政に届けたい」と緊張した面持ちで語った。今回選で誕生したいわゆる小沢チルドレンについて、「小泉チルドレンとは全く違う」としたが、党所属でない小林氏が党本部主導で県連の頭越しに比例名簿に登載されたことは、組織の在り方の象徴でもある。
 自民党のベテラン県議は「労組に支えられた民主党に地方組織はないに等しい。われわれは多様な団体を通じて声を集約し、くみ上げてきたが、民主党はどうするのか」と指摘する。県内の民主党党員・サボーターは7763人。前年度と同数で足踏み状態だけに、党関係者は今回選が党勢拡大の弾みになると期待する。5区の細野豪志氏(38)を支援した桜町宏毅県議(富士市)は「今までは『細野氏個人は支援するが、民主党は別』という支持者も多かった。今回選で候補者と党への支持が一致したと感じた」と話す。
 岡田克也党幹事長は公示前、本紙の取材に対し、「組織政党は21世紀型ではない」としつつも、地方議員を増やす必要性を認めた。岡本幹事長は県議会の民主系会派平成21の勢力が自民党の約半数という現状から、「党員を増やし、県議も再来年の選挙で倍増させたい」と力を込めた。(衆院選取材班)
(静新平成21年9月3日「民9自1の波紋」)

 衆院選しずおか:4
「民9自1の波紋」「揺れる業界団体」
「民主との距離暗中模索」
 全国に知られる茶どころ・静岡。戦後長い間、農協や茶業団体は補助金をはじめとする自民党政権の分厚い支援施策の下で振興を図ってきた。茶業界の中枢機関として業界と政治をつなぐ日本茶業中央会の会長職は、大半を本県の自民党国会議員が歴任してきた。
 茶葉の消費伸び悩み、価格低迷など将来が見通しにくい中での自民の小選挙区全敗の衝撃。業界に「大きな後ろ盾を失った」(県中部の茶生産者)と悲痛な声が飛び交った。
 「現実を受け止め、民主党議員の茶業への思いを聞くなど、一から関係づくりをしていく必要がある」
 良質茶産地の一つ、川根本町農業経営振興会の野口直次会長(57)は不安を隠さない。「方向性が見えないうちに、一番茶のシーズンを迎えることになるかもしれない」と本音を漏らす。
 茶業振興に力を注いできた同町の杉山嘉英町長は「今後の不透明さは残る。農業が後退することのないよう、山間地や過疎地の実情に沿った施策を展開してほしい」と新政権に要望する。
 業界団体は現場の課題や要望を取りまとめ、政治家へ政策を提言する一方、"集票マシン"の役割を担ってきた。政権交代で、この関係がどう変わるのか。
 衆院選の投開票から間もない1日午前。県西部のある金融機関で幹部会議が開かれた。話題の中心は、民主政権下での景気動向だった。
 「輸送機器関連の中小企業にも受注が戻りつつある中での激変は心配材料」「昨年10月の緊急保証の返済時期が迫っているが、売り上げは戻っていない」
 世界同時不況で、県西部の製造業は厳しい環境に置かれたまま。選挙戦では与野党それぞれが「景気回復に取り組む」と訴えたが、政策の差異は明確でない。この日の幹部会議は、額を寄せ合っての分析が2時間以上続いた。だが、結論な出ず、漠然とした不安だけが残った。
 県西部の経済団体は、選挙区の国会議員や首長が代わっても、一定の距離感を保ちつつ、発言力を確保してきた。
 県中小企業団体中央会の役員を務める60代の経営者は、民主党が掲げた最低賃金1000円(時給)実現と、製造現場への派遣原則禁止の二つの施策に「中小・零細の現場を理解しているのか」と否定的。「マニフェスト(政権公約)で掲げた法人税率引き下げなどの中小企業向け支援策をどう実施していくのか、期待しながら注視したい。(民主党の)お手並み拝見だ」と話す。
 一方、スズキの鈴木修会長兼社長が8区の民主候補の出陣式で「一遍、民主にやらせてみましょうよ」と呼び掛けたように、「変化」を求める声が大きくなっていたのも事実だ。
 浜松商工会議所の御室健一郎会頭は「自公政権時と変わらず、正面から言うべきことは言うし、注文をつけていく。300議席を獲得したとふんぞり返ることなく、真摯(しんし)に聞く耳を持ってほしい」と民主政権への期待を語る。同時に、自民党に対しても「どう立て直すのか関心がある。世の中の民意を先取りするような政党になれば、自民もよくなる。(敗北は)再生のための良い機会だ」。(衆院選取材班)
(静新平成21年9月4日「民9自1の波紋」)

 衆院選しずおか 5=完
「民9自1の波紋」「地域の声どこに」
 予算獲得知恵比べ加速
 「地域が抱える問題の解決、郷土の発展に成果を出していく。政権交代の『果実』を皆さんに味わってもらいたい」。8月31日早朝、JR沼津駅南口。台風による風雨が強まる中、衆院選小選挙区で全国2位の票を獲得し、5期目の当選を果たした民主党の渡辺周氏(47)=6区=は、街頭演説でこう明言した。
 政権交代で、地域の自治体と与党との距離はどうなっていくのか。地域の声は、どう国に伝えればいいのか。過疎地域を抱え、道路や河川などインフラ整備も遅れる伊豆東部地区の首長の悩みは深い。
 渡辺氏は「(民主党系の)地方議員を中心に、きめ細かく地域の要望をかなえていきたい」と話すが、具体的な実績については「13年間ずっと野党だったこともあって、ほとんどない」(有力支援者)。与党となっても「要望をさばく秘書が、質量とも足りないのでは」と危惧(きぐ)する声も上がる。
 選挙戦終盤に沼津市内で行われた自民候補の総決起大会。強い逆風により敗色が濃くなっていた中、伊豆の国市の望月良和市長は熱弁を振るった。「4年間、地域のために頑張ってきてくれた人に、報いてほしい」
 狩野川上・中流域の伊豆の国市や伊豆市は、これまで民主党の県議や市議は不在で、支部や連絡所もない。選挙後、望月市長は民主党政権への不安とともに、「特にこの地域は河川や道路の整備が必要。自民党政権の時のような要望活動ができなくなれば、市民にとって絶対に困る」と危機感を口にする。
 概算要求や財務省原案がまとまる時期、これまで都内の官庁街や国会周辺は、インフラ整備を求める官民の期成同盟会など陳情団が行き交った。自民党国会議員や秘書の先導で、首長らが省庁幹部らと面談し、事業の必要性を説いた。
 狩野川改修や伊豆縦貫自動車道整備などで、多くの期成同盟会を抱える国土交通省沼津国道河川事務所の宮武裕昭所長は、こうした陳情活動について「地元の意見を集約し、熱意を省庁に伝える伝達システムとして機能していた」と一定の評価をする。
 だが政権が交代。自民の多家一彦県議は「民主党がマニフェストで論じたことを考えれば、自民党政治のような陳情は受け付けないだろう」と指摘する。原田昇左右元建設相の秘書を務めていた時代、数多くの陳情を扱った山村利男県議は「この1、2カ月は要望活動をする側も受ける側も様子見で、まったく動けないのではないか」とみる。
 選挙戦さなかの8月下旬、栗原裕康沼津市長は国交省で谷口博昭事務次官と面談した。
 「公共事業で、受益者となる民間からの出資を加える仕組みなどで、勉強会はできないか」(栗原市長)
 「地域のまちづくりのため、手伝います」(谷口事務次官)
 栗原市長は従来の陳情政治に代わり、「地元が頑張っている」ことを直接アピールする新しい仕組みを模索してきた。その一つが公共事業への民間出資という。
 「民主党政権が公共事業に厳しい目を向けてくることは想像がつく。これからは自治体同士の知恵比べが加速する」。栗原市長は、今後をこう予測する。(衆院選取材班)
(静新平成21年9月5日「民9自1の波紋」)

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