2009年9月20日日曜日

「二大政党制と政権交代」橋爪大三郎

「二大政党制と政権交代」橋爪大三郎
 参院を比例代表制に
 民主党が圧勝した。戦後初の、選挙による本格的な政権交代だ。小選挙区制が、やっと設計どおりの性能を発揮した。8月30日は、戦後政治の転換点として、歴史に刻まれるだろう。
 二大政党制と民意による政権交代が定着すれば小選挙区制は大成功。ただ今回、問題点も浮かびあがってきた。
 振り子の幅
 まず第一に、振り子の幅が大きすぎる。4年前は小泉旋風。今回は民主党への追い風が吹き荒れた。有権者が少し態度を変えるだけで、議席が大幅に増減する。1票の手応えに満足しないで、有権者も、小選挙区選挙の性質を学習し、もう少し賢明に投票すべきだ。
 これだけ振れ幅が大きいと、現職議員がごっそり落選する代わりに、大量の新人(チルドレン)が当選してくる。世代交代は必要だ。でも度を超すと、政治家の質が悪くなる。リスクが大きすぎて優秀な人材が政治を目指さなくなるからだ。
 第二に、少数政党の存在理由をどう考えるか。公明党は今回、八つの小選挙区で全敗した。比例区のおかげでそこそこ議席を保ったが、単純小選挙区制だったら、第3党以下は消滅だ。
 自公連立は、自民党の小選挙区対策だった。3~5議席を争う中選挙区では、投票数の15%も固めれば当選。だが小選挙区では50%が安心ラインだ。そこで自民党は公明党の集票力に期待して手を結び、支持率が低下するなか10年間政権を保ってきた。でも今回、公明党の集票力は、有権者のひき起こす「風」にかなわないことが明らかになった。
 小党のジレンマ
 連立は、議席の少ない政党も政策に直接影響力を及ぼせるので、小党に有利である。逆に言えば多数党に不利。マニフェストを読んで投票した大多数の有権者の意思を、小党が連立協議でひっかき回せば、民主主義の原則に反してしまう。与野党が伯仲して小党がキャスチングボートを握るのは、二大政党制でありがちとは言え、望ましい現象ではない。
 連立にからまない第3党以下は、政策を実現するチャンス、つまり存在理由が問われる。でも連立にからむと、第1党に票を投じた多数者の意思を、少数者が損なったと言われてしまう。解きがたいジレンマだ。
 第三に、これと関連するが、二院制は衆院の小選挙区制のもとでうまく機能できるのか。
 衆院で単独過半数を占めた民主党が、社民、国民新党と連立するのは、参院でも過半数がほしいから。「ねじれ国会」で苦しんだ自民党の二の舞いは嫌なのだ。戦後、自民党が両院で多数を占めていたあいだ、ねじれはなかった。今後は、衆院で与野党が逆転するたび、ねじれを覚悟しなければならないのか。
 チェック機能
 だが待ってほしい。二院制はもともと、衆院の暴走を参院がチェックするためのものだった。とすれば、ねじれは正常な姿だと言えないか。
 民主党は、衆院の比例区を180から100に削減するとしている。二大政党制に向けて、さらに半歩前進だ。でもそれなら、参院の選挙制度はむしろ比例代表制に改めたらどうか。小選挙区制は政権選択に、比例代表制は少数意見の尊重に、向いているからだ。
 これまで参院は衆院のコピーで、憲法の期待するチェック機能が働いてこなかった。ねじれを解消するよりも、衆院の優位と参院のチェック機能が調和する、うまい仕組みをゼロから超党派で考えるほうがよいと思う。
 民主党がどのような政権をスタートさせるか。民主党は来年の参院選に勝利し、両院の安定多数をめざすだろう。だが、民主党の圧勝を境に、風向きは変わったと思う。119議席の自民党は、解散が怖くない。これからは攻め放題だ。
 民主党は国会で、時間をかけ、とことん政策論争をしてもらいたい。そして時には、重要法案の修正に応じる。法案の賛否にいちいち党議拘束をかけるのもやめる。そういう健全な議会運営の慣行を育て、自民党と協力できるなら、いま小手先の連立に走る必要はないはずである。(東京工業大教授)
(静新平成21年9月19日「論考09・9月」)

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