淡島ホテル再開「来月半ば」
元従業員新会社意向示す
沼津市の淡島ホテルの旧運営会社「淡島ホテル(現AWH)」の破産手続きを巡り、同ホテルの元従業員と債権者団体が2日、新会社「フェニックス」を設立し、ホテルの売却先が見つかるまでの暫定的な運営を担う意向を示した。ホテルは先月24日から臨時休業中で、破産管財人から委託を受けて早ければ来年1月半ばの営業再開を目指す。
同ホテルを巡っては、静岡地裁沼津支部が2019年12月、AWHの破産手続き開始を決定し、破産管財人が財産調査を進めている。同地裁支部は今年10月にAWHから実質的に運営していた関連会社への事業譲渡を認めない決定を出し、破産管財人がホテルの建物などの引き渡しの手続きを進めている。
新会社は財産処分が完了するまで、ホテル管理業務を受託することを目指す。売却先の下でもホテル運営を継続して担いたい考え。営業再開に向け、自主退職した元従業員約80人から希望者を再雇用していく。運転資金の確保については、既に複数社がスポンサーに名乗りを上げているという。
新会社の社長に就任した杉森大樹元総支配人(38)と「淡島ホテルグループの貴任を追及する債権者の会」が2日、同ホテルで記者会見した。AWH側に対し、夫払いになっている元従業員の賃金などの支払いを求める集団訴訟を起こすことも検討していると明らかにした。杉森社長は「ホテルを愛するお客様やスタッフの笑顔を取り戻す」と決意を語った。
【静新令和3年12月3日(金)朝刊】
淡島ホテル 再建への道「上」
自らの手で覚悟の一歩
「自主退職の従業員呼び戻す」
「必ずスタッフを愛する淡島ホテルに呼び戻す。今は生活を立て直してください」。2日に沼津市の同ホテルで開かれた新会社「フェニックス」の設立記者会見で、社長に就任した元総支配人、杉森大樹さん(38)の視線の先には元従業員らの姿があった。会見は元従業員や取引先にも公開し、約100人が詰めかけた。給与の未払いで11月末に自主退職した仲間を思う言葉には、休業を余儀なくされたホテル再建への強い覚悟がにじんだ。
1991年、旧東京相和銀行(現東京スター銀行)の故長田庄一元会長が開業した会員制高級ホテルは、シラク元仏大統領らVIPが訪れる華やかさとは裏腹に、経営面は多額の負債を抱え自転車操業だったという。経営難の中、従業員は高品質のサービスを提供する衿持(きょうじ)を失わなかった。
光と闇を抱えたホテルは2018年4月、名古屋市の保証事業会社に譲渡された。未払い給与は同社によって解消され、「救世主が現れた」(杉森さん)。だが、そんな期待はもろくも崩れ去った。19年12月、静岡地裁沼津支部が破産手続き開始を決定。厳しい経営状況が明らかになった。経営陣らが破産法違反(詐欺破産)容疑で逮捕される刑事事件に発展した。
給与や取引先業者、水光熱費などの支払いに充てる資金も親会社側から届かない。ホテルは事実上"経営破綻"に陥り、臨時休館に追い込まれた。
「淡島ホテルを必ずよみがえらせる」。杉森さんは、従業員の手でかつてのホテルを取り戻そうと、債権著団体と連携し、新会社設立に立ち上がった。水面下で準備を進めているさなか、杉森さんはほかの幹部2人とともに、一方的に解雇を通知された。
長引く給与未払いは計6千万円ほどに上り、ほかの従業員の生活も限界を迎えていた。失業保険の給付を受けて生活を立て直すため、約80人が自主退職する苦渋の決断もせざるをえなかった。
苦難の中、新会社は11月16日に法人登記を完了。ホテル再建への一歩を踏み出した。現時点では、新会社の従業員は杉森さんただ1人。元従業員の女性(47)は「不安はあるが、ホテルにもお客様にも思い入れがある。再開の力になりたい」と胸の内を明かした。
◇
沼津市のリゾートホテル「淡島ホテル」の旧運営会社「淡島ホテル(現AWH)」が静岡地裁沼津支部から破産手続きの開始決定を受けて約2年。破産法違反事件への関与が指摘されている旧経営陣に代わって、元従業員が新会社を設立して営業再開を目指す新たな局面へ移った。ホテル再建に向けた関係者のこれまでの苦悩と課題に迫った。
【静新令和3年12月3日(金)朝刊】
淡島ホテル 再建への道「下」
困難に「不死鳥」の決意
新会社設立に高まる期待
明かりが消えた沼津市の淡島ホテル。来年1月半ばの営業再開を目指す新会社設立の記者会見から一夜明けた3日朝、静まりかえったホテル館内に電話の音が鳴り響いた。「再開したら必ず宿泊します」「何か支援できることはないか」。市民や宿泊客、地元企業などから再オープンを応援する声が相次いで寄せられた。
運転資金はゼロ、従業員は社長1人ー。再建への課題は山積している。ホテル管理業務の受け皿を目指す新会社「フェニックス」は、困難にも不死鳥のようによみがえるとの決意を込めた。元総支配人で社長に就任した杉森大樹さん(38)は「反響は率直にうれしい。ただ、ホテルの再生には乗り越えなければいけない壁がいくつもある」とこれから進む道の困難さを実感する。
この苦難にともに立ち向かおうと「債権者の会」も支援を表明している。債権者の会は被害回復や同ホテルの運営正常化などを目的に、同ホテルの旧運営会社「淡島ホテル(現AWH)」やグループ会社の責任を追及してきた。債権者である一方、ホテルにほれ込み何度も足を運んだ常連客でもある。加納晴彦会長は「順調に新会社が運営されるよう応援したい」と従業員と思いを重ねる。
地元の観光関係者も動向を注視する。同ホテルは沼津市が舞台のアニメ「ラブライブ!サンシャイン!」に登場するモデルとされていて、"聖地巡礼"として訪れるファンは多い。年始に宿泊する予定だったという茨城県の男性会社員(28)は「休館と聞いて残念に思っていた。淡島ホテルに泊まることが毎年の楽しみ。絶対に再開してほしい」と心待ちにする。NP0法人沼津観光協会の担当者は゜「淡島ホテルがなければ、地域ごと沈んでしまう。関係機関がスクラムを組んで支援すべき」と強調する。
10月、静岡地裁沼津支部はAWHから実質的に運営していた関連会社へのホテルの事業譲渡を認めない決定を出したが、関連会社側は東京高裁に控訴している。破産法違反(詐欺破産)罪で起訴されたAWH親会社役員2人の初公判も12月に予定され、民事、刑事裁判の行方も注目される。
債権者の会の原和良代理人弁護士は「ホテルを支えているのは地元の人たち。ホテルの再生は沼津の地域経済の発展にもつながる。AWHグループへの追及も進める」と力を込めた。
【静新令和3年12月4日(土)朝刊】
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