2011年6月18日土曜日

沼津駅鉄道高架事業

 対話重視も先行き不透明
 沼津駅鉄道高架事業
 知事、合意形成に意欲
 ゼロベースの検証の末に「関係者間の合意形成に努力せよ」との"注文"付きで現計画が支持された沼津駅周辺鉄道高架事業。県の有識者会議が17日、事業を「妥当」とする検討結果報告書を提出し節目を迎えた。焦点の貨物駅移転問題について川勝平太知事は未買収用地の「強制収用はしない」と明言。対話による合意形成に活路を見いだす構え。だが地権者ら反対派の説得に展望はなく、事業の行方は依然不透明なままだ。
 報告書をまとめた有識者会議の森地茂座長との会談。川勝知事は、提言された市民参加型計画策定手法パブリックインボルブメント(PI)方式について「強制収用という乱暴なことはしない。徹底的に意見を突き合わせ、合意してまちづくりに入るのが望ましい」と述べ、わが意を得たりの表情だった。
 ただ、有識者会議はPIに過大な時間をかけることが社会的損失につながるとくぎを刺す。知事は、再来年7月までの任期を目安に方向性をまとめる意向を示し、「今までと違うスピード感を持って進める」と述べた。
 反対派は態度を変える兆しはない。森地座長は「PIは現案を押しつける場ではない」と説明し、さまざまな立場の関係者が意見を交わし、事業を形作っていくことに期待を寄せた。
 県は関係者に報告書の内容の周知を図り、PIの具体的方法の検討に入る。高架事業に賛成、反対のそれぞれの立場の住民に再び、同じテーブルに着いてもらうだけの議論の土俵をつくることができるのかが、当面の課題となる。

 PI手法に不安も地元
 県有識者会議の報告書を受け取った川勝平太知事が「対話の継続」を打ち出した17日、鉄道高架事業の現場である沼津市では、反対、推進の双方が、まだ見えない「次の展開」への関心を寄せた。
 会議の委員に公開質問状を送るなどしていた地権者ら反対派は、知事が「強制収用はしない」とあらためて言及したことに「良かった」と一様に安心した様子。知事が開催意向を示した意見交換会に参加する意欲を見せた。
 しかしPI手法については「事業の白紙撤回も視野に入れる場なのか、現計画にただ納得してくださいというだけのものか、よく分からない」と指摘。グループは市役所で会見し、報告書で示された地域振興の有効性や費用対効果を頁っ向から否定した。貨物駅の「原地区移転」に対する反対姿勢も、以前と変わらない。
 PI手法は構想段階から市民意見を導入する手法で、都市計画決定された事業での導入事例は全国的に異例とされる。
 沼津市の栗原裕康市長は「知事が結果を『尊重する』ということは頼もしい。今後も推進に努力する」とし、「事業が防災面や地域の発展にいかに有益か、市民が具体的に描いた上で結論を導けるようなPIの場にしてほしい」と願った。
 市議会鉄道高架事業推進特別委の浅原和美委員長は「市民の多くが待ち望んでいる。一日も早い実現に期待する」と話した。
 【県有識者会議最終報告書骨子】
 ▼事業は沼津市都心部が抱える交通環境や市街地分断の問題を抜本的に解消
 ▼費用便益分析でも、社会経済的に合理性を有する
 ▼事業の合意形成に市民が参画するPI(パブリックインボルブメント)を導入すべき
 ▼沼津貨物駅の移転先は原地区とする現計画が妥当
 ▼規模縮小や近隣駅との統合はさまざまな問題が生じる。しかし、可能性についての議論は否定しない
(静新平成23年6月18日朝刊)