2016年6月2日木曜日

大腸がん治療の最前線


大腸がん治療の最前線
 国際ソロプチミスト駿河特別講演会
 県がんセンター絹笠祐介医師が解説
 国際ソロプチミスト駿河は、特別講演会(一般市民公開講座)を先月、ホテル沼津キャッスルで開催。県がんセンター大腸外科部長の絹笠祐介医師による「"手術支援ロボット"による大腸がん治療の最前線」をテーマとした話を聴いた。
 優れた手術支援ロボット
 がんセンター大腸では活用例が全国1
 絹笠医師は、大腸では便とガスが作られ、栄養を摂取する臓器ではないので、なくても生きていけるため、病気によっては全部を取る場合があることや「ポリープ」と言うと病気をイメージする人も多いが、「ポリープ」は病気の名前ではなく「盛り上がっているものは全部、そう呼んでいる」ことなどを説明した。
 大腸ポリープの80%は腺腫と呼ばれるもので、大腸がんの多くはこの腺腫から発生すると考えられている。腺腫は悪化すると大腸の壁の中に入っていく進み方をするといい、腸壁内部にはリンパ節や血管があるので、リンパに転移したり別の臓器に転移したりすることになる。
 大腸がんは、ステージゼロではポリープと同じ立ち居振る舞いをするので保険が下りないが、ステージゼロというのは適切な処理をすれば一〇〇%治ることを意味する。ステージⅡになると立派な進行がんと呼ばれ、さらに進んだステージ皿で発見されることが多いという。
 がんは、放置されたままでいいというものは、ほとんどないため、早期発見と早期治療が大事になってくるが、大腸がんはステージⅢでも五年生存率が七七%で、多くの人が手術すれば治る。
 便に血が混じって大腸がんが分かることもあるが、日本人の多くは痔を持っていて痔の血を区別するのは難しい。
 内視鏡検査でも、腫瘍などで塞がっている個所があると、そこから先にカメラが進めないため診断ができず、見つかった腫瘍を取り除いた後の一年後の検査で前回検査で判別できなかった場所からがんが見つかるようなこともある。
 このため、仮想内視鏡診断という検査方法を使うことが年々増加していて、今は内視鏡検査とほぼ同数、検査が行われている。
 これは、現実の腸ではなくCG(コンピュータグラフィックス)を用いて再現した腸の内部を映して診断するものだが、現実のものを見るように内部を再現できる。
 検査前に腸を空っぽにしておくのは内視鏡検査と同じ。
 絹笠医師は手術について「腸を取ること自体はそれほど難しい手術ではない。(それより)リンパの手術をする方が難しい」とし、リンパは腸のような単純な構造でなく腸壁の内部に隠れた場所であることと器官の細かさが手術を難しくさせていることを説明した。
 また、狭い隙間や肛門が近い部位の手術も困難だといい、外科医の技術レベルによって「(ある病院で)『肛門が残せない』と言っても、残せる(技術を持った)所(病院)もある」という。
 排尿や性機能の器官の近くは特に難しく、「手術を受ける医療機関をしっかり選ぶべきだ」とアドバイスした。
 次に、腹腔鏡手術について説明を移すと、開腹手術の代わりに腹腔鏡手術を行うことが現在は増えている、と説明。傷と痛みが少ないのが大きな理由だが、がんを退治することに命を懸けている医者の立場からすると、開腹して、しっかり見た方が安心できるという。
 また、国内トップの病院三十を比べると、開腹手術後に合併症などを起こしたケースの割合は大きな違いはないが、腹腔鏡手術ではトップ30でも合併症が起きる割合に大きな違いがあり、腹腔鏡手術の技術には、まだ大きな差があるという。
 「腹腔鏡手術が、なぜ難しいのか。この手術は三人で行うが、三人が共に、この手術に精通していることが求められる。腹腔鏡手術は習熟に時間を要する。多くの経験が必要になる」とした。
 しかし、経験を積めば精度の高い手術ができるようになる、という。
 県がんセンターでは平成二十三年十二月から稼動している手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」による大腸手術の件数が、全国でも圧倒的に一位。
 絹笠医師は、腹腔鏡手術では三人の医師の腕を六本使うが、ダ・ヴィンチでは一人で四本の腕を操ることができ、助手の手を借りる場面が少なくなってきたことを説明。
 「まるで患者さんの、お腹に乗り込んで手術をしているような感覚になる。小さい自分の小さな手が、お腹の中に入って手する感覚」だと話した。
(沼朝平成28年6月2日号)