2018年6月20日水曜日

伊東汚職事件


検証『癒着の構図』
「伊東汚職事件」 上
 土地取得で過去にも
トップ交渉 常態化
 伊東市の伊東マンダリン岡本ホテル跡地(同市桜木町)売買を巡り、便宜を図る見返りに土地所有者の「東和開発」社長から現金約1千万円を受け取ったとして、前市長の佃弘巳容疑者(71)が収賄容疑で警視庁と県警に逮捕された。贈賄容疑で逮捕された社長や収賄ほう助容疑で逮捕された仲介役との闇でなぜ癒着が生まれたのか。市や市議会は当時の市長の独断と暴走を防げなかったのか。風光明媚(めいび)な温泉地を舞台にした汚職事件の構図を探った。
 「東和開発が(同跡地を)21千万円で市に売ってもいいと言っている。買えるか検討してくれ」。20154月ごろ、佃容疑者は当時の市幹部に具体的な価格を示して購入を指示した。この時、既に同社との売却交渉を終えていたとみられる。市政のトップによる直接交渉は「不自然」にも映る。だが、佃市政の12年はそれが「通常になっていた」(市関係者)という。
 市の土地取得に関し、職員が難航した交渉を佃容疑者がまとめることは過去にもあった。代表的なのは公園になっている旧市役所跡地の一角。価格で折り合わなかった地権者を説得して取得した。だが、交渉経緯は当時の市職員にも知らされていない。「政治は裏で動く」。佃容疑者は堂々と公言していた。
 佃容疑者が主導した唐突なホテル跡地取得への疑問も、立地条件の良さなどで隠された。結果的に市職員が東和開発と接触したのは、契約手続きの時だけ。仲介役の存在は誰も知らされていなかった。佃容疑者の「トップダウン方式」は市財政の再建や行政改革につながった反面、さまざまな弊害があったとの指摘も多い。
 市はホテル跡地を補正予算を組んで購入した。市議会のチェック体制に間題なかつたのか。ある市議は「難しさはあるが、委員会協議会で事前報告があれば調査できたかもしれない」と私見を述べた。同協議会への報告が必要なのは5千平万㍍以上の土地取得。4千平方㍍の同跡地は報告がなかったという。
 19日には6会派の代表と正副議長が協議し、特別委員会の設置も視野に原因究明と再発防止策の検討に入った。市も佃容疑者の在任期間中の土地取引などを検証する方針。市幹部は「市と市議会、両輪で再発防止に取り組んでいきたい」と強調した。
【静新平成30620()朝刊】


 伊東汚職事件 下
 「旧知」の結び付きか
 人脈重んじた前市長
 伊東市のホテル跡地売買を巡る汚職事件で、収賄の疑いで逮捕された前市長の佃弘巳容疑者(71)。地元関係者によると、自らに連なる人脈や地縁を重んじ、面倒見の良い親分肌のリーダーとして慕われる一方、意に沿わない相手は排除する独善的な側面もあったという。贈賄容疑で逮捕された社長や、収賄ほう助容疑で逮捕された仲介役の会社員とは市内の同じ地区出身。関係者は「旧知の間柄の人たちが、佃前市長の一声で結び付いたのでは」と指摘する。
 佃容疑者が3選を目指した2013年の市長選。市内のある業者は対抗馬を応援したが、佃容疑者が当選した。その後、市の一部の公共事業に関われないようにされたという。この業者の関係者は「公私混同の市政運営。やり方があからさまだった」と憤る。
 「地元では誰も逆らえない存在だった。周囲の意見を受け入れず、好き嫌いが極端に分かれるタイプのトップだった」。同市の不動産業の男性は、佃容疑者についてこう語る。元市議は「権力が大きくなりすぎて、黒いうわさの多い政治家になってしまった。適切な助言をできるブレーンが必要だった」と指摘する。
 一方、佃容疑者は自らの広い人脈と強力なリーダーシップで市政改革に腕を振るった。市長在任の12年間、職員の給与削減などで市の財政を再建し、赤字続きの市競輪事業を黒字化させた。大物国会議員との親密さも公言していた。ある市幹部は「人口7万人規模の首長にはできない仕事をした」と評価する。
 だが、足元に「落とし穴」があった。捜査関係者によると、同郷の建設会社「東和開発」社長森圭司郎容疑者(47)=贈賄容疑で逮捕=から2014年ごろ、「ホテル跡地を競売で入手した」と伝えられたのが事件の発端とみられる。市が土地を購入する際、便宜を図る見返りに、同郷で仲介役を務めた会社員稲葉寛容疑者(50)=収賄ほう助容疑で逮捕=を通じて現金約1千万円を受け取ったとされる。
 3容疑者は親族を含め、古くから交流があったとみられる。逮捕前、佃容疑者は取材に「(稲葉容疑者に)貸していた金が戻ってきただけ。収賄には当たらない」と主張した。ただ、同じころ、周囲の知人に対し、稲葉容疑者について「面倒を見てやったのに、裏切られた」とこぼしていたという。

【静新平成30621()朝刊】


0 件のコメント: