2022年1月29日土曜日

駅前街づくりの意義再認識 学習院大教授(国際経済学)伊藤元重

 

 駅前街づくりの意義再認識

 学習院大教授(国際経済学)伊藤元重

 環境に好ましい移動手段

 JR袋井駅南口にできたショツピングモール、ノブレスパルクの関連のシンポジウムで、同地に行く機会ができた。まだ現地を見ていないが、地域に住む人々の集いの場としての駅前開発として大変に興味がある。

 鉄道駅は地域の人が多く利用する重要な拠点である。静岡市や浜松市のような中核都市はもちろん、利用者数のもう少し少ない駅でも、地域の人にとっては重要な拠点となる。そこを中心に街づくりをすることは自然の流れだ。

 ただ、こういう言い方をすると意外に思う方も多いかもしれないが、鉄道はかつて迷惑施設であった。石炭を焚(た)いて猛烈な煙を出して走るからだ。明治のはじめに品川を通った鉄道は、町を避けるためにわざわざ海を埋め立てて海上を走った。その遺跡が今出てきて、JR東日本の高輪ゲートウェイ駅の開発に展示されることになった。過去の鉄道と現在の鉄道駅を結ぶような存在で面白い。

 鉄道が迷惑施設であり、街の中心を外れて走ったということは、現在でも大都市の街並みに反映されている。静岡市、熊本市、そして名古屋市など、主要な街のかつての中心街は駅から離れていたところにあり、今でも熊本市や名古屋市などはその名残が強く残っている。

 現代の鉄道は、もちろん、迷惑施設ではない。気候変動問題で省エネが求められる時代にあっては、鉄道が移動手段としても最も優れたものであるからだ。渋滞する道路を多くの人が利用するのではなく、鉄道を利用して中長距離の移動をすることが、地球環境にも好ましい。

 東日本大震災の津波で破壊された街を復興させるプロジェクトでも、駅前の街づくりが大きな柱となっている。駅の近くに歩いて暮らせる生活圏ができることがその地域の賑わいにつながるのだ。駅から少し離れたところに住む人にとっては、駅までの移動手段として自動車を利用することになるだろう。ライド・アンド・パークという生活スタイルである。

 長い年月かかる都市開発

 袋井駅近くのショッピングモールの話に戻ろう。鉄道や駅を最大限活用して街づくりをすることの重要性を再認識する時代かもしれない。1980年代以降、自動車で多くの人が集まる大型郊外型のショッピングモールが全国に大量にできた。こうした施設は、鉄道.があまり利用できない地域では依然として重要な存在ではある。ただ、静岡県のように東海道線や新幹線が東西を横断しているような地域では、鉄道駅を中心に街づくりを進めることの意義は大きい。

 もっとも、街づくりは簡単なことではない。駅前にはすでにさまざまな施設があって、その利害を調整しながら大型の開発をするためには、行政の役割が重要となる。商業だけでなく、医療や健康関運の施設、高齢者が住みやすい住宅、子育てに適した教育環境など21世紀の豊かな生活を演出する存在でなくてはならない。東京のさまざまな駅でも駅前を中心とした再開発のプロジェクトが多くあり、そのいくつかについては私も議論に加わることがある。それらの多くは計画段階から数えると何十年にもわたるようなプロジェクトだ。都市開発というのは長い年月をかける覚悟が必要なものなのだ。

【静新令和4年1月29日(土)朝刊「論壇」】


0 件のコメント: