2019年9月28日土曜日

今川義元と氏真 題材に新小説 沼津市在住の作家夫妻


今川義元と氏真 題材に新小説
沼津市在住の作家夫妻
「愚将イメージ払拭を」
 今年は静岡ゆかりの戦国武将今川義元公生誕500年の節目。今川氏再評価の動きが活発化する中、沼津市在住の歴史・時代小説作家の鈴木英治さん(58)、秋山香乃さん(51)夫妻が義元と氏真を主人公に据えた新作をそれぞれに執筆、静岡新聞社から出版した。乱世を生きた父子が抱えていた心の葛藤や人間味あふれる人物像を丁寧に描いた夫妻は「愚将や公家かぶれなど、今川氏に対する誤ったイメージを払拭(ふつしょく)する機会になれば」と口をそろえる。
 今川氏の小説は4作目となる鈴木さんは「義元、遼(りよう)たり」を執筆した。幼少期に仏門に出された義元が駿府に戻され、家督争い「花蔵の乱」を経て当主になるまでの青年期に比重を置いた。「デビューのきっかけは1999年の『駿府に吹く風』(刊行時『義元謀殺』と改題)。今作は今まで書いてこなかった義元と兄弟の関係性を掘り下げた」
戦国時代は久しぶりで普段は「江戸もの」の長期シリーズを多く手掛ける。時代小説の醍醐味(だいごみ)を「決められた時代考証の枠内でどこまで自由に創作するか。人物をいかに魅力的に書くかも鍵」と語る。今回も今川家軍師の雪斎に導かれ、武将として成長していく義元の心の機微を味わいある文体で描いた。
一方、秋山さんにとって氏真は15年ほど前から書きたかった"意中の人"。念願がかなった「氏真、寂(じゃく)たり」は、偉大な父を失った氏真が、坂を転がるように衰退する大名家当主として多くの試練に耐えながら務めを果たす生きざまが心を揺さぶる。「県内読者を意識して名付けた」という妻お志津との夫婦愛や幼少期を共に駿府で過ごした家康との微妙な関係は、現代人の人生にも重なり合う。
「戦国時代の価値観では負け組だが、現代なら勝ち組かもしれない。家族や仲間に慕われ、家臣の再就職先も考えてから畳の上で長寿を全うした。戦国武将では他に類を見ない」と秋山さん。掛川城の籠城戦などは史実や氏真が残した歌などを改めて読み解き、独自の視点を織り交ぜた。「戦国時代の歴史研究は近年、新説がどんどん出ている。今まで常識と思われていた説が覆ることも珍しくない」という。
同じ題材で同時期に執筆するのは夫妻にとって今回が初。秋山さんが「途中、私の原稿を読んでいる夫を観察して、泣ける場面なのに泣いていなかった時は書き直した」と明かすと、「心情の描き方などが天才肌。とてもかなわない」と鈴木さんが笑顔で応じる。
共に今年で作家活動20年目。節目の年に再び今川と向き合った鈴木さんは、「静岡の人がひそやかに愛してきた今川を生誕500年を機に全国区にしたい」と言葉に力を込めた。(文化生活部・柏木かほる)
著者サイン会とトークが県内書店で開かれる。
29日マルサン書店仲見世店(沼津市大手町)午後1時▽1013日戸田書店静岡本店(静岡市葵区)午後2時▽同27日谷島屋浜松本店(浜松市中区)午後2時。

すずき・えいじ沼津市出身。1999年「駿府に吹く風」で角川春樹小説賞特別賞を受賞してデビュー。代表作は累計300万部超えの「口入屋用心棒」、「突きの鬼一」シリーズなど。歴史小説作家9人で結成する「操瓠(そうこ)の会」局長。
あきやま・かの北九州市出身。2002年に「歳三往きてまた」でデビュー。「龍が実く」で野村胡堂文学賞受賞。代表作は茶々を軸に信長、秀吉、家康との交流を描いた「火の姫」シリ_ズ丸「吉田松陰大和蕉鈴」など。
今川義元・氏真父子を人間昧あふれる癌写で作品化し尭歴史・時代小説家の鈴木英治さん、秋山香乃さん夫妻11沼津市大手町
【静新令和1927日夕刊「文化・芸術」】

0 件のコメント: