2009年9月22日火曜日

米政権に匹敵する鳩山内閣 佐藤隆三

 米政権に匹敵する鳩山内閣 佐藤隆三
 期待と失望が米国の原動力
 「日本人にも政治への期待感がこんなにあったのだ」。これは鳩山政権発足の翌日に、米国から帰国した際に感じた日本国内の強烈な印象である。えも言われぬ高揚感が至る所に瀕(みなぎ)っていたのだ。
 約半世紀間、日米を往復してケネディ大統領就任からオバマ大統領のホワイトハウス入りを目の当たりにしてきた。その都度体感した米市民の興奮ぶりに、政治への期待と失望のサイクルこそが米国政治を突き動かす有権者の巨大なエネルギーなのだ、と痛感した。ひいてはこのエネルギーが経済や外交にも波及する。つまり政権交代が米国の力の源である。
 とはいえ、政権交代が米国を常に正しい方向に導いてきた、とは言い難い。ジョンソン政権によるベトナム戦争への深入り、ニクソンのウォーターゲート事件、そしてブッシュのイラク戦争も米国を誤った方向に導いた。だがそのたびに米国民は、次期こそは、の期待と希望で軌道修正に立ち上がってきた。これが米政権交代の意義である。
 日本では事実上4年前に一種の政権交代が起こった。小泉政権の発足がそれだ。小泉内閣はいわば自民党から分裂した「小泉党」が作った政権であった。有権者はあの時にすでに自民党から離れて、別の党による政権交代を求めていた。だから「自民党をぶっ壊す」と言った小泉氏に野党的新風を感じ、当時の日本には一時的に閉塞(へいそく)感打破の高揚感が溢(あふ)れた。だが、筆者自身はその米国模倣の経済政策に危うさを感じ、あの疑似政権交代を支持する気にはなれなかった。
 安倍、福田、麻生と続いた3代の内閣は、小泉党・小泉政権の負の遺産を相続し苦しんだ。サプライズ人事や人気だけで首相を選ぶ手法で小泉政権を真似たが、自民党の旧弊をそっくり残した残骸政権にすぎなかった。
 では、あのまま小泉党政権、あるいは小泉政権と同じ政策を続ける内閣が存続していたらどうなっていたか。結果は、より悲惨な経済格差が国民を苦しめていたであろう。その理由は小泉政権の矛盾は、官から民へを主張しながら官を優遇し続け、民だけに競争を押しつける変則的市場主義だったからだ。タクシー台数だけ増やす規制緩和政策はその好例である。
 弱者への政策不可欠な日本
 鳩山民主党政権は、小泉及び自民党残骸政権の矛盾に対する有権者のノーが選んだものだ。4年前に刷新への期待を担って誕生した小泉及び自民党残骸内閣に代わり、官を脱し民に温かい競争主義を求める政策を国民が期待した民主党政権である。新内閣の人事を見る限り、麻生お友達内閣と比べて現在の日本が提供できる最高の人材を要所要所に据えた、と言える。米オバマ政権の閣僚たちとも互角に渉(わた)り合える人たちだ。
 競争と切磋琢磨(せつさたくま)は社会の発展や向上のために必要だが、弱者への温かい政策はいまの日本に不可欠である。バラ播(ま)きとされる、育児教育や医療及び農業支援は、米国との比較においても当然の支出である。米国公立高の教育はほとんど無料である。日本の民主党政策は、消費だけを伸ばす、と批判されるが、GDP比で先進国中最低の日本の消費を増やすことが内需拡大の第一歩である。
 今回の政権交代にも失望や不満が遠からず生まれるだろう。混乱と試行錯誤も繰り返すだろう。だが鳩山新内閣は政権交代時の「身震いするような」感激を持ち続けてもらいたい。(ニューヨーク大名誉教授)
(静新平成21年9月22日「論壇」)

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