2009年9月19日土曜日

鳩山新内閣発足


識者評論「鳩山新内閣発足」㊤
「脱官僚依存」の危機 評論家 立花隆氏
 党組織の権力強大化
 鳩山新政権が成立した日、真夜中にはじまった新閣僚の記者会見を見て、途中からウンザリするとともに、こりゃダメだと思った。「これは明治維新以来の革命だ」だの、「新しい歴史が切り開かれた」だの、もっともらしい美辞麗句がさかんにならべられたが、その革命の実体がさっぱり見えてこない。
 政権交代が事実上確定したのが、もう2週間以上も前だというのに新政権への移行が何も準備できていないのだ。国家戦略局という新しい組織。そこで予算編成の大枠から、あらゆる国家的グランドデザインを練るという。
 担当の副総理菅直人は、どういうスタッフで、この組織を運営するのかと問われて、新組織だからスタッフは事実上いない(民主党の担当職員が若干)と白状せざるをえなかった。予算を直接担当する財務省との線引きを問われると、財務大臣とよく話し合うとしか答えられなかった。国家戦略局は、小泉内閣の経済財政諮問会議(廃止する方針を表明)に代わるものなのか、と問われると、原理的に全くちがうという理念的な説明しかできなかった。
 具体的な話ができず、理念的な答弁しかできなかったのは菅直人だけではない。既存の組織を持つ大省庁の担当大臣も同じだった。みな具体的仕事を担当する事務方の役人と事前の打ち合わせが何もできなかったから具体的な話ができないのだ。
 鳩山内閣がスローガンとしている「脱官僚依存」を実現するために、官僚と事前の打ち合わせをしないように強いお達しが出ていたのだという。
 聞いて唖然(あぜん)とした。どんな仕事も、現場の担当者との打ち合わせ抜きにいい仕事ができるわけがない。大臣になったらすぐに事務方と打ち合わせて、もっと中身があることをしやべるべきだった。
 少数のベテラン政治家は自分の言葉で中身があることをしゃべったが、多くのダメ大臣たちは、「これからやるべきことはすべて、マニフェストに書いてあります。私はマニフェストでお約束したことを忠実に実行していくだけです」の一言をいろんなバリエーションでしゃべっただけだった。こいつらアホかと思った。民主党は何か根本的なところでかんちがいしているのではないか。官僚と事前打ち合わせをさせたら官僚のマインドコントロール下におかれてしまうと心配したようだが、そういう低レベルのダメ政治家を大臣に任命したからこんなことになるのだ。お粗末人選をタナに上げて、もっぱら官僚を諸悪の根源視したのは筋ちがいだ。官僚は行政のプロであり、行政組織とは官僚の集まりそのものである。総理大臣は行政組織の長なのだ。官僚の長が脱官僚をいうなど大まちがいだ。大臣もいい仕事をするには、官僚を敵にまわすのではなく、公僕としてもっともっと働かせることを最優先すべきだ。
 だいたい、マニフェスト、マニフェストとしかいえない政治家たちは、一見「脱官僚依存」したようで、マニフェストを作った「党官僚」への依存を強めただけではないのか。政治家にとって一義的に重要なのは、自立心であり、自分の考えを持つことだ。議員の党官僚への過度の依存は党官僚組織を強大化し、かつてのスターリンのような党書記長職の権力を一方的に高めてしまう。これはキケンだ。
(静新平成21年9月18日夕刊)
識者評論「鳩山新内閣発足」㊦
永久闇将軍的権力の確立 評論家 立花隆
 角栄超える小沢幹事長
 民主党の場合、スターリン的な党組織の専制政治化がすでにもたらされているのではないか。この場合、書記長ではなく幹事長と呼ばれているが。
 今回の選挙の最大の立役者として、幹事長小沢一郎の功績が大きく評価され、参院選も彼が中心的に仕切ることになった。すでに民主党内の小沢の影響下にある議員の数は150人になんなんとして、ゆうに一つの政党以上になっている。日本の政治史上、これにならぶ数の力を一身に具現したのは、全盛時代の田中角栄だけである。あの時代、田中は自民党の総裁すなわち日本国の総理大臣の首を次から次にすげかえ、希代のキングメーカーといわれた。
 この勢いで参院選でも小沢の勢力がふえると、小沢は民主党の代表の首を自由にすげかえることが可能になり、民主党を足場にした小沢の永久闇将軍的権力が確立することになる。田中の秘蔵っ子といわれた小沢の政治家のモデルは田中角栄である(とくにその政治力の行使の仕方において=自分の思い通りに政治を動かそうとする欲望の強さにおいて)。そこまでいくと、小沢は師をしのぐことになる。
民主党のプランによると、官僚組織の中に多数の政治家を副大臣とか政務官などの形で送りこむことになる。それと、国会の各常任委員会を多数派として支配することを通じて、官僚組織を完全にコントロールできる体制をととのえるのだという。
 そうなると、世界最強といわれた日本の官僚組織が小沢の完全コントロール下におかれるわけだ。そのような未来を予知させる事態がすでに出現している。官僚の力をそぐために、事務次官など官僚組織のトップが独自の記者会見をすることが禁止された。官僚の情報発信力を奪ってしまうわけだ。官僚組織のトップたちの集まりであった事務次官会議もつい最近廃止された。官僚たちの内部的自己調整機能を奪うわけだ。
 事務次官会議を仕切るのは事務方の官房副長官で、影の総理大臣と呼ばれてきた。麻生政権最後の官房副長官は元警察庁長官の漆間巌で、彼は、民主党代表だった小沢の西松建設からの献金問題が起きたとき、「この事件は自民党には波及しない」とのイレギュラー発言をしたことで、民主党(つまりは小沢一郎)の怒りをかっていた。今回事務次官会議廃止でクビを取られたのもそのせいだろうといわれている。
 西松建設事件の影響は他にもある。あのとき、小沢に民主党代表を辞任すべしとアドバイスした民主党長老が一人は渡部恒三、もう一人は藤井裕久だった。渡部は今回の人事で衆院議長確実といわれたのに外された。藤井は財務大臣確実といわれたのに一時は外されかかった。それもあの辞職勧告のためといわれた。
 ともかく、今回の人事で閣僚人事も、党役員人事も基本的に小沢の圧倒的な影響下で決されていったと伝えられている。これから民主党の政治家たちはみな小沢の影響下におかれざるをえないし、日本の官僚組織のすべても小沢の意向を気にしながらことを決めていくことになるだろう。岩手小沢王国で起きたことがこれから全国規模で起きていくことになるのではないか。
 そんな世の中になったらたまらんなと思う。一見清新な鳩山政権の誕生も素直には喜べない。
(静新平成21年9月19日夕刊)

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