2009年7月9日木曜日

「県知事選の衝撃」

「県知事選の衝撃」
前山亮吉 県立大学国際関係学部准教授 ◇まえやま・りょうきち氏 学習院大大学院修了。博士(政治学)。立教大助手、県立大講師・助教授を経て現職。著書に本欄「時評」をまとめた「静岡の政治日本の政治」(静新新書)など。
 票の構造変化が到来
 激戦の結末は、本県初の非政治家・非官僚川勝平太知事の誕生であった。しかも自民党支持候補は初めて知事選挙で敗れた。こうした衝撃の余韻はなお大きいが、それ以上に特筆すべき事は、本県における知事選挙の常識が次の2点につき、崩れたという事実である。
 第1に自民党が支持する知事候補は自民党内部での分裂選挙ではない限り、余裕の勝利をおさめるのが普通であった。しかも今回は民主党系候補が割れ、これまでの国政選挙等の実績から見ると、自民党支持候補の票は頭一つ抜けていて当然であった。しかし坂本候補はこの有利な条件を生かせなかった。総力を挙げた選挙運動にもかかわらず、敗北したことは中央政界における自民党一党優位の危機がついに保守王国・静岡まで波及した歴史的な事態と言わざるを得ない。組織固めを軸とする守りの選挙では逃げきれない時代に入った。
 逆に民主党にとっては、一本化失敗という不利な条件にもかかわらず勝利したことは、間近に迫る総選挙を戦う上で勢いを増すデータであろう。こうした底流は2年前の参議院選挙静岡県選挙区で民主党が過去最高の82万票(自民党は54万票)を獲得した事に始まるが、知事選の結果はそうした流れを更に定着させるものである。
 第2に首都圏に見られるような非自民系首長の誕生は保守王国・静岡県には、波及しないという常識が崩れた。この常識は、たとえ都市部で非自民票増加という流動化が見られたとしても、郡部(町)の自民票は不動であり、合計すれば自民党が上回るという「勝利の方程式」に支えられていた。しかし市町村合併は自民党の牙城である郡部を削減し、今回の郡部有権者はそもそも全有権者の7%である21万人に縮小していた。今回の知事選は減少した郡部票が自民党を支えきれるかを見る上で重要な選挙であったが、1万票しか差がつかない(坂本6万票・川勝5万票)結果であり、「勝利の方程式」は消えた。
 川勝知事を実現したのは、政令市静岡・浜松の投票行動であった(川勝29万票・坂本24万票)。すでに4年前の知事選から、石川前知事の票は静岡市葵・駿河区で対立候補を下回ったが、今回の坂本候補の票は両区で3位に沈んだ。しかも川勝知事の拠点とも言える浜松市では投票率61・9%
が県平均を上回る成績であったため、激戦の中で決定的な票差がついた。首都圏のように大都市部が選挙戦の死命を決する票の構造変化が、静岡県にもやってきた。
 もとより以上の変化が目前に控えた総選挙にも、影響を与えることは間違いない。非自公票の合計が112万票と自公票の1・5倍に拡大した事態にあらためて驚かされる。
(静新平成21年7月9日「時評」)

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